コロッケは明日の分まで
結衣はスーパーで、半額のコロッケを二個買った。
一個五十四円。合計百八円。給料日前の夕飯としては優秀だった。家にある千切りキャベツを添え、一個は今夜、もう一個は明日の弁当に入れる。レジを通す前から予定は決まっていた。
帰宅してコートを脱ぐと、部屋が冷えていた。暖房をつけるほどではない、と判断して、靴下を二枚重ねる。会社から持ち帰った水筒には、朝いれたお茶が少し残っている。冷たくて渋かった。
コロッケを皿にのせ、電子レンジで温めた。揚げ物はトースターで焼き直すとおいしいと知っている。でも、予熱の時間を待てなかった。ラップの下で衣がしんなりする。
一個目にソースをかける。キャベツは昨日の夜に切ったせいで、端が茶色くなっていた。結衣はそこだけ指でつまんで捨てた。
テレビでは、芸能人が商店街の揚げたてコロッケを食べていた。音声を消しても、さくっ、という字幕が出る。結衣のコロッケは、箸で割るとぺたんと沈んだ。
それでも甘いじゃがいもはおいしかった。一個を食べ終えたところで、皿の端に残る二個目を見た。
明日の弁当。朝、ご飯の横に詰めれば、おかずを考えなくていい。予定どおりに残すのが賢い。
けれど今日は昼休みが十五分しかなく、コンビニのおにぎりを机で食べた。午後は電話を切るたび次の電話が鳴った。帰りの電車では、前に立った人のバッグがずっと肩に当たっていた。
結衣は二個目にもソースをかけた。
明日の自分に申し訳ないと思いながら一口食べると、すぐにその申し訳なさが腹立たしくなった。明日の弁当より、今日の夕飯を先に満たして何が悪いのだろう。
二個目は少し冷めていた。結衣は急がず食べた。食後、空になった容器を洗い、弁当箱には梅干しと海苔を出しておいた。
明日はおにぎりでいい。コロッケを二個食べた夜が、浪費になるわけではない。
部屋はまだ寒かったが、重ねた靴下の中で足先だけは温かかった。
食後、結衣は弁当箱を出す代わりに、明日の昼用のおにぎりを一つ握った。海苔は別に包んだ。先の自分を見捨てたわけではなく、世話の仕方を変えただけだった。
予定を守ることより、空腹を見誤らないことのほうが、今夜は大事だった。