デッドヘッド三名
空港へ転職した久礼素良は、前職が葬儀社だった。そのせいで、搭乗口の無線を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。
『四八二便、デッドヘッド三名追加。最後列へ』
素良はストレッチャーを三台用意した。
先輩係員が目を丸くした。
「何を運ぶの?」
「ご遺体です。三名、後方席へと」
「遺体? 自分で歩いてくるよ」
「最近はそういう演出もあるんですか」
「演出じゃない。制服で来るから、見れば分かる」
制服を着せた遺体が歩く。素良の葬儀社時代にもなかった高度なサービスである。
そこへ機長らしい男性が現れた。
「デッドヘッドで乗ります。席、離れてます?」
素良は声を落とした。
「ご本人に告知済みなんですね」
「何を?」
「お亡くなりになっていることを」
機長は自分の胸に手を当てた。
「脈はありますが」
「奇跡です」
続いて客室乗務員二人が来た。
「荷物は機内持ち込みでいいですか」
「副葬品は規定サイズなら」
「誰が葬られるんです?」
素良は三人分の氏名を確認し、前職の癖で荷札へ生年月日と宗派の欄まで書き始めた。
「宗派は空欄でよろしいですか」
機長が答えた。
「航空会社です」
「新しい宗派ですね」
さらに保安検査員がストレッチャーを見て駆けつけ、会話を聞いた乗客がざわつき始めた。先輩係員は素良を脇へ引っ張った。
「航空業界でデッドヘッドは、乗務のため別の空港へ移動する乗員が、客として飛行機に乗ること。死体じゃない」
「生きた乗員?」
「全員ぴんぴんしてる」
「なぜデッドと呼ぶんです」
「その便では勤務に就かず、移動だけだから。語源はともかく、葬儀はしない」
素良は三台のストレッチャーを見た。
「では、これは不要ですか」
機長が腰を押さえながら言った。
「六連勤の後なので、一台だけ貸してほしい」
搭乗開始後、素良は案内マイクを握った。
「デッドヘッドのお客様三名は、最後列へお進みください」
一般客が一斉に振り返った。
先輩がマイクを奪った。
「その呼び方を乗客向けに使うな!」
三人の乗員だけが、慣れた顔で手を挙げた。