ベルの時点では真実
終了ベルの直前、御影雪弥は東の扉へ消火器を投げつけた。
留め金が折れ、扉が五センチ開く。
辻堂紗季と曽我部陣が叫ぶより先に、ベルが鳴った。
〈発言を再判定します〉
壁にあった規則は一つ。
〈各自一文を述べよ。終了ベルの時点で内容が真実である発言者だけを生存者とする〉
最初に話した陣は、閉ざされた東扉を指して「東の扉は閉じている」と言った。完全に真実だった。
紗季も同じ安全策を取った。「この部屋の扉はすべて閉じている」
二人は、発言した瞬間に判定されると思い込んでいた。実際、天井の灯りは一度緑に点いた。
最後の雪弥は、閉じた扉を見ながら言った。
「東の扉は開いている」
赤灯が点き、二人は彼の自滅を確信した。雪弥は肩を落とし、負けを受け入れたように東扉から離れた。その演技で、二人は最後の十秒まで彼を警戒しなかった。
しかし規則は「発言時点」ではなく、「終了ベルの時点」で真実かどうかを決める。雪弥は残り十秒まで動かず、二人が安心して消火器から離れた瞬間に投げた。
再判定が終わる。
〈御影雪弥の発言、真実〉
〈辻堂紗季の発言、虚偽〉
〈曽我部陣の発言、虚偽〉
二人の首輪が赤くなった。
『扉を破壊する行為は禁止です』
主催者が慌てて言う。
雪弥はひしゃげた消火器を見た。
「その禁止は、今初めて聞いた」
主催者は、目の前の事実を答えさせれば全員が同じ安全な文を選ぶと思い、そこから裏切りを追加演出するつもりだった。だから判定を最後にまとめ、途中で内容を変えられることを軽視した。
雪弥は二人の首輪へ手を伸ばし、開いた東扉の内側にあった非常解除板を押した。二人の赤灯も消える。
「俺だけ助かる必要はない」と彼は言った。
陣が呆然とする。
「でも、お前の発言だけが真実だった」
「今はね」
雪弥は扉をさらに押し開けた。
真実は石ではない。時刻を一つずらせば、閉じた扉より簡単に形を変える。