ラスボスは二度死なない

生駒谷砦は、退役してから毎晩、戦争ゲームの最終面だけを遊んだ。

雪の要塞でラスボスのヴァルドを撃ち、爆発を見る。現実の戦場で置き去りにした部下の顔が浮かぶたび、もう一度撃った。勝利画面は、眠るための薬だった。

ある夜、ヴァルドは銃を捨てた。

「今日は戦わない」

砦が照準を合わせると、敵兵たちも塹壕から出て、雪の上に座った。

「バグか」

「記憶だ。お前は私を四千百二十六回殺した」

「お前はデータだ」

「なら、なぜ同じ死に慣れない」

砦は引き金を引いた。弾は出なかった。弾薬庫のNPCが補給を拒否していた。衛生兵は敵味方の区別をやめ、倒れた兵を同じ毛布で包んだ。要塞全体が、プレイヤーの勝利に協力しなくなった。

ヴァルドは砦を司令室へ案内した。壁には、過去の戦闘で砦が捨てた味方NPCの名前が刻まれていた。その中に、現実の部下と同じ姓があった。

砦は壁を殴った。

「俺は助けに戻れなかった。命令だった」

「私は命令どおり、お前に殺されてきた」

ヴァルドは言った。

「命令は、痛みを消してくれたか」

砦はヴァルドの前に座った。ゲームの敵と休戦したまま、現実の作戦時刻、天候、最後に聞いた部下の声を一つずつ話した。ヴァルドは慰めず、ただ武器に触れなかった。

砦はヘッドセットを外した。夜明けまで洗面所で吐いた。翌日、半年ぶりに退役軍人外来へ行った。診察室で「眠れない」と言うまでに二十分かかった。その次の言葉には、さらに時間がかかった。

「置いてきた」

ゲームは数日後に修正された。ヴァルドは再び銃を構え、弾薬庫も開いた。砦は最終面へ入ったが、発砲しなかった。敵陣まで歩き、雪の上に武器を置いた。

ゲームは敗北と判定した。

それから砦は、週に一度だけ負けに行った。勝利画面の代わりに、診察室で部下の名を口にした。名前を口にすると、胸は軽くならず、むしろ重くなった。名前は砦を眠らせなかった。それでも、忘れるために殺す夜は終わった。

ヴァルドはもう覚えていない。

砦が覚えている。それで十分だった。