一人につき一度

鐘巻ヒヨリが蘇生泉へ手を入れると、倒れた剣士が光の中で起き上がった。

《巡礼者の泉》

一人につき一度、死亡者一名を蘇生できます。

使用回数は泉ではなく、使用者ごとに記録します。

「もう使うな!」

隊長が泉の前へ立つ。最終ボス戦まで蘇生を温存するつもりだった。これまで誰もが「一人につき一度」を、泉が一人だけ蘇らせる意味だと思っていた。

ヒヨリの使用履歴には《1/1》。隣の治癒師には《0/1》

「次はあなたが触って」

治癒師が泉へ手を入れる。二人目が蘇る。

隊長は愕然とする。攻略隊は五十人。生存者一人につき一度なら、最大五十人を戻せる。

だが死者が増えるほど、使える生存者が減る。ヒヨリたちは戦闘を中断し、倒れた者を一人ずつ泉の縁へ運んだ。蘇った者が次の死者を起こす。蘇生の鎖がつながっていく。

最後に残ったのは、敵として倒した泉守ウルネだった。

隊長が止める。

「そいつまで戻せば、また戦闘になる」

ヒヨリの使用回数は残っていない。最後に蘇った新人だけが未使用だ。

新人はウルネへ手を伸ばした。

泉守が目を開ける。武器を取らず、蘇生された攻略者たちを見回した。

「私を倒した者まで、なぜ」

「一人だから」

説明には味方一人とも、プレイヤー一人とも書かれていない。

ウルネが泉へ触れる。彼女にも《0/1》が表示され、戦場の奥で消えかけていたボス本体を蘇生した。

巨大な敵は人型へ戻り、泉の封印を守る前代の巡礼者だったと判明する。

《巡礼者の泉・使用者数:五十二》

《蘇生者数:五十二》

泉の周囲では、誰を先に蘇生するかで争いが起きなかった。起きた者が次の一人を選べるため、選択権が隊長へ集中しなかったからだ。

最後に戻った前代巡礼者は、自分を倒した者へ蘇生を返そうとした。だが全員の使用回数はもう一だった。

「では次に死なないよう、泉を守ります」

蘇生の連鎖が終わった場所で、初めて生存の仕事が始まった。

《レイド勝敗を破棄――一人につき一度とは、選ばれた一人を戻す制限ではなく、戻された一人が次の一人を選べる連鎖でした》