一枠の袋
銀鏡マコトが宝石を袋から捨てるたび、追跡する騎士が一体ずつ消えた。
《複製迷宮》
使用中の所持枠一つにつき、守護騎士を一体生成します。
《初心者の小袋》
所持枠:1
全収納装備中、最小。
大容量倉庫を背負った仲間たちの後ろには、剣、薬、素材の数だけ騎士が並んでいた。百枠を埋めた者には百体。攻略隊は「敵が無限湧きする」と思い込み、さらに薬を買い足していた。
マコトの袋には、帰還石が一つだけ。騎士も一体だけだ。
「戦利品を捨てるなんて正気か!」
床へ落とした希少鉱石が光になり、それを写した騎士も消える。仲間たちは迷いながら荷物を捨て始めた。欲しかった剣、二度と手に入らない衣装、思い出の素材。迷宮は静かになるが、すすり泣く声が増える。
最終扉の前で、マコトの騎士が立ちはだかった。帰還石の複製だ。倒しても石が袋にある限り復活する。
「それも捨てろ」
帰還石は、この世界から現実へ戻る唯一の手掛かりだった。マコトは握りしめ、説明を読む。
《帰還石》
使用者一名を、所有物とともに出口へ送る。
所有物とともに。
彼は石を袋から出し、騎士へ差し出した。捨てるのではなく、渡す。騎士が受け取った瞬間、袋は空になり、複製対象もゼロになる。
騎士は消えず、人間の姿へ戻った。これまで捨てられた品々を抱えた、迷宮の管理人だった。
「持たない者だけが、何を持ち帰るか選べます」
最終扉が開く。向こうには現実ではなく、捨てた品を必要とする難民の町があった。
《複製守護騎士:0》
《所持枠使用数:0》
難民の町では、捨てられた鎧が屋根に、剣が農具に、希少布が毛布に作り替えられていた。迷宮の管理人は、持ち主が価値なしと判断した品を、一つずつ必要な場所へ運んでいたのだ。
マコトの帰還石は町の中央で灯台になった。一人だけを帰す光は、出口のない者たちへ方角を示す光へ変わる。
空の小袋には、何もないからこそ次に受け取れる余白が残った。
《帰還試験を更新――出口へ持ち帰る物を減らす試験ではなく、手放した物の行き先を選ぶ試験です》