七日先の相談相手

古い事務机の右端に、切手のいらない細い郵便口があった。

自分宛ての手紙を入れると、七日後の自分へ届く。未来の自分が返事を入れれば、翌朝こちらへ戻る。

女性は、転勤を受けるか迷っていた。

希望していた仕事だが、母を一人町へ残す。

母は足を悪くし、買い物や通院を時々頼んでくる。

「転勤しましたか。

選んだことを後悔していますか」

手紙を入れる。

翌朝、未来の自分から返事があった。

「冷蔵庫の牛乳が切れています。

答えを未来へ丸投げしないでください」

自分の字なのに腹が立つ。

二通目。

「母は困っていませんか」

返事。

「母は昨日、近所の人と映画へ行きました。

私は一人で引っ越し箱を開けています。

この文章から、どちらを選んだか決めつけないで」

転勤したようにも読める。

だが未来の自分は、肝心な部分をわざと隠している。

三通目には、選択肢を書いた。

「残るべきなら丸を。

行くべきなら三角を」

返ってきた紙には、歪んだ四角が一つ。

「母へ聞きましたか」

女性は机を叩いた。

母はいつも、

「あなたの好きにして」

と言う。

それ以上聞いても同じだと思っていた。

その夜、夕食を作りながら転勤の話をした。

「好きにして、以外で答えて」

母は野菜を切る手を止めた。

「行ってほしい」

女性は驚いた。

「一人で平気なの?」

「平気ではない。でも、あなたが残って不機嫌になる方が困る」

「不機嫌にならない」

「もうなってる」

母は、自分も支援サービスを増やしたいが、娘が何でも先に手伝うため言い出しにくかったと話した。

近所の友人と出かける計画も、娘が心配すると思って黙っていた。

女性も、

「頼られなくなるのが寂しい」

と認めた。

二人で、転勤後の通院、買い物、緊急連絡を決めた。

女性は転勤を受けた。

母は送別の日、泣かなかった。翌日に電話してきて、

「ごみの出し方が分からない」

と聞いた。

七日後、女性は新居で机の郵便口を開けた。

過去の自分から四通目が届いている。

「選んだ私は、正しかったですか」

未来側になった女性は返事を書く。

「正しい日は少ないです。

今日は母が寂しいと言い、私も帰りたいと思いました。

それでも来週、また相談します。未来ではなく、本人に」

手紙を入れたあと、母へ電話した。

七日前の自分には渡せなかった、今日の迷いを話すために。

未来の自分は正解を知る人ではない。

選んだあとも、相手と予定を直し続ける相談相手だった。