七時を撃つ鳩時計
山荘「白鹿」の食堂に、午後七時ちょうど銃声が響いた。無人の館を見張る通話端末が音を拾い、村の集会所にいた管理人たちが聞いたのである。二十分後、山荘主の十文字環は書斎で撃たれた姿で見つかった。雪の山荘には暖炉だけが燃え、食堂の通話端末は七時の一発を正確に録音していた。
疑われたのは時計修理人の河鹿沢啓、甥の冬木絃、料理人の沓掛千紗。三人は六時四十分から村の聖堂で慈善演奏会に出ていた。河鹿沢は舞台で古時計の解説をし、冬木は受付、沓掛は百人分の料理を配っていた。七時の銃声を聞いた時、全員が大勢の視線の中にいた。
環は夕方、河鹿沢へ修理代の詐取を問い、冬木には相続から外すと告げ、沓掛には解雇を言い渡した。三人とも山荘へ入れる鍵を持つ。だが雪道を往復すれば四十分かかり、演奏会の途中に戻るのは不可能だった。村人は三人の居場所を分刻みで語り、誰の証言にも食い違いはなかった。
書斎の手掛かりは三つだけだった。第一に、壁の鳩時計から右側の真鍮製の錘が一つ消えていた。第二に、猟銃の引き金を囲む金具へ、時計に使われる緑色の組紐の繊維が付いていた。第三に、鳩時計は七時で止まり、内部の時打ち用の腕だけが不自然に曲がっていた。
河鹿沢は五時半に修理を終え、「これで一週間は狂わない」と皆の前で時計を掛け直した。冬木と沓掛が最後に書斎へ入ったのは昼で、その後は河鹿沢の作業中、扉の外にいたという。
「銃を撃った手は、七時には山荘にありませんでした」私は止まった鳩時計を示した。「河鹿沢さんは時打ちの腕へ組紐を結び、七時に機構が動いた瞬間、外した錘の力で銃の引き金が引かれるよう仕掛けた。失われた錘、組紐の繊維、曲がった腕は一つの装置の跡です。三人の七時のアリバイは真実ですが、時計の内部へ触れ、銃声の時刻まで決められたのは、修理を一人で行ったあなただけです。あなたは自分の不在ではなく、時計が代わりに動くことをアリバイへ組み込んだのです」