七条目の旋条痕
弾丸が水槽の底へ沈む音は、拍子抜けするほど小さかった。
科学捜査研究所の茅島征路は、二十三年前の質店射殺事件で押収された弾丸と、警察拳銃の試射弾を顕微鏡に並べた。立会人は射撃訓練指導官の越智脇慶三。事件当時、拳銃庫の整備係だった。
六本の旋条痕は一致しない。だが撃針痕と回転傷は、同じ銃のものだった。
「銃身だけ交換されています」
征路が言うと、越智脇は試射台の水滴を布で拭いた。
「古い拳銃だ。部品交換は珍しくない」
「交換記録は事件の三日後。理由は『摩耗』。しかし交換前の試射弾が一発も保存されていません」
質店主は、警察官による恐喝を告発する予定だった。犯人は現金を取らず、店主の帳簿だけを持ち去った。事件は強盗未遂として未解決のまま残った。
越智脇は顕微鏡を覗かずに言った。
「撃ったのは、当時の刑事課長だ。もう死んでいる」
「あなたは銃身を替えた」
「命令された。拳銃庫には私しかいなかった」
「帳簿は?」
「本部の金庫だろう。今も名前が載っている連中がいる」
征路は試射弾の薬莢を持ち上げた。底面には、現職の警務部長へ貸与中の拳銃番号が刻まれている。凶器は処分されず、二十三年間、警察の腰で正義の象徴として携帯されてきた。その拳銃は表彰式の警護にも使われ、何度も市民の拍手の前を通っていた。
越智脇が低く言った。
「報告書に撃針痕まで書けば、全貸与拳銃の緊急回収になる。現場は丸腰になるぞ。強盗も暴力団も待ってはくれない。お前は一件の死者のために、今生きている警官を危険にさらすのか」
それは脅しではなく、実際に起こる混乱だった。
征路は二つの証拠袋を用意した。一つには試射弾、もう一つには薬莢。通常なら同じ鑑定番号で県警へ戻す。だが同じ経路に乗せれば、また銃身のように消える。
彼は薬莢の袋だけに、裁判所鑑定保全の赤い票を貼った。
越智脇が机を叩く。
征路は顕微鏡写真、拳銃番号、交換記録の画像を独立鑑定機関宛ての封筒へ入れ、封緘印を七条目の旋条痕の上から押した。