三十六個の餃子

宏一と伊織が二人きりで料理をするのは、親たちの新婚旅行以来だった。当時、宏一は十八、伊織は十三。宏一が焼いた餃子は半分焦げ、伊織は「母さんの方がうまい」と言った。それから十五年、二人は必要なときしか連絡を取らなかった。

今回は、母の手首の手術だった。退院当日は包丁を握れない。父は料理ができない。だから冷凍できる餃子を作ることになった。

伊織がキャベツを刻み、宏一がひき肉を練る。台所には母のメモが貼られていた。〈しょうが多め。包みすぎない〉

「これ、俺への指示だな」

「昔、皮破いてたから」

「おまえは閉じてなかった」

「蒸し餃子って言っただろ」

包み始めると、宏一の餃子は相変わらず太りすぎ、伊織のは薄く平らだった。形の違うものがバットに並ぶ。三十六個。母の分、父の分、二人の試食分。

焼き役は宏一が引き受けた。フライパンに水を入れ、蓋をする。伊織は横から火を弱めた。

「勝手に触るな」

「また焦がす」

「十五年前と一緒にするな」

「十五年前もそう言った」

蓋を開けると、羽根は少し濃い色だったが、焦げてはいない。二人は立ったまま一個ずつ食べた。宏一のは肉汁が漏れ、伊織のは端が固い。

「母さんの方がうまいな」と伊織が言った。

「そこは変わらない」

冷めた餃子を保存袋へ分ける。伊織が油性ペンで日付を書き、宏一は〈父〉〈母〉と分けた。最後に六個余った。

「持ってけよ」

「おまえが食え」

「一人分じゃない」

「二回に分ければ」

「そういう意味じゃない」

伊織は新しい袋を出し、六個を入れた。表に〈宏一〉と書き、その下へ小さく〈二人分〉と足した。

「誰と食えって?」

「知らない。来たやつと」

宏一は袋を受け取らず、実家の冷凍庫の一番上へ入れた。

母が退院した夕方、四人で餃子を焼いた。会話は手術の痛みと父の失敗談ばかりで、昔のことは誰も口にしなかった。宏一は帰るつもりだったが、伊織が二回目のフライパンを火にかけた。

「六個、残ってる」

「あれは持ち帰り用だろ」

「冷凍庫がいっぱいだから、今日食う」

伊織は宏一の前にも小皿を置いた。宏一は上着を椅子へ掛け直した。餃子の焼ける音がする間だけ、帰る時間を延ばすことにした。