三十日だけの空き家

地震で石環町を追われた四十二家族が、丘の町へ着いた。

丘には空き家が多い。だが持ち主たちは、避難民相手なら相場の三倍でも借り手がつくと知っていた。

「払えないなら納屋で寝ればいい」

最初の家主が言ったとき、町判事バシュはその契約書を破らなかった。

代わりに、空き家の扉へ価格札を掛けた。

家賃は、屋根と壁の修繕費を月割りした額に銅貨一枚を加えたまで。井戸から遠い家、窓のない部屋、雨漏りする屋根は、それぞれ減額幅まで一覧にした。入居後三十日は無料。三十一日目から同額を支払う。家主が直さない箇所は借り手が記録し、その分を差し引く。価格、修繕、支払いは役場の帳面で誰でも見られる。

「私有財産に口を出すのか」

家主たちが怒った。

「貸さない自由はある。だが町の井戸と道路を使って利益を得る家は、この町の貸家札を使う。それだけだ」

翌日、札を掛けた空き家は二軒だけだった。四十二家族は広場の天幕に残ったが、バシュは「空き家があるから」と勝手に押し込まなかった。借り手にも、断る権利と内見する時間を与えた。

ところが石環町の瓦職人が、その二軒の割れ屋根を半日で直した。建具師は傾いた扉を直し、代金を公開帳簿どおりに受け取った。実際の修繕費が皆に見えると、三倍の家賃を求めていた家主の札だけが空しく揺れた。二軒の借り手が夜を暖かく過ごしたという話は、翌朝には町じゅうへ広がった。

三日目、五軒。

五日目には十九軒が登録された。

避難民は住居と引き換えに働かされたわけではない。それでも石環町の職人たちは、自分の新しい家を直したあと、隣の家まで手を貸した。丘の町の若者も技を教わりに加わった。

三十日後、最初の家族が役場へ家賃を持ってきた。

家主は銅貨を数え、「本当に一枚だけなんだな」と笑った。

夕暮れ、長く煙のなかった丘の空に、四十二本の細い煙が上がった。

役場の空き家板には、最後の一枚が裏返されていた。

『空き家なし。ただし、新築希望の共同組合員を募る』

その下へ、町の大工と石環町の瓦職人が同時に名前を書いた。