三本脚の円卓
若者向けの夜間食堂にある丸テーブルは、一本の脚が折れていた。雑誌を重ねて支えていたが、誰かが肘をつくたび味噌汁が揺れる。
増井歩夢は、そのテーブルで二度と食べないつもりだった。共同金庫から五千円が消え、管理役だった彼にも疑いが向いたからだ。出ていけとは言われていない。だからこそ、居づらかった。
閉店後、丹羽瑛士が廃材を運び込んだ。
「脚、作る。丸ノコ押さえて」
「俺じゃなくてもいいだろ」
「他は皿洗い。お前は手が空いてる」
廃材は太すぎた。二人で鉋をかけ、四角い棒を少しずつ細くする。歩夢が削りすぎると、瑛士は紙を一枚巻いて太さを戻した。色は他の三本と合わず、長さも二ミリ足りない。
「また雑誌を挟むのか」
「今度は薄いやつで済む」
瑛士は古い求人誌の表紙を切り、脚の底へ貼った。テーブルを起こすと、意外なほど安定した。
作業中、裏板の隙間から百円玉が三枚落ちた。二人とも一瞬、手を止めた。消えた五千円とは関係ない。瑛士は拾って金庫へ戻し、歩夢は何も言わなかった。
夕食には四人しか来なかった。椅子は六脚ある。歩夢は厨房で食べようとしたが、瑛士が新しい脚の前にだけ、丼を置いた。
「そこ、いちばん丈夫だから」
疑いは残っている。金も戻らない。それでも歩夢が座っても、テーブルは傾かなかった。
配膳が始まると、ほかの三人は歩夢を見ないふりをした。だが漬物の皿は一周し、最後に彼の前へ止まった。金庫の鍵はまだ瑛士が持ち、翌日から帳簿も二人で確認することになっている。歩夢は監視されるようで腹が立った一方、確認役から外されなかったことに、少しだけ肩の力が抜けた。
新しい脚には節が一つあり、天板の下で目のように見えた。歩夢はそこへ日付を書いた。金が消えた日ではなく、テーブルが立ち直った日を。鉛筆の跡は薄かったが、消す者はいなかった。
食後、彼は空いた二脚を壁へ戻さず、丸い天板の下へ押し込んだ。明日誰かが来ても、すぐ座れる幅を残して。