三枚そろわない矢
王城へ納めた矢二百四十本の代金を払えと、武器商人が怒鳴り込んだ。
請求額は金貨四百八十枚。倉庫係は受け取ったと言い、財務官は支払いを急がせる。だが訓練場には百六十本しか届いていなかった。
「数え間違いだ。小役人は黙って判を押せ」
支払いの期限は正午だった。判を押さなければ軍への納入を止めると商人は脅し、押せば国庫から根拠のない百六十枚が消える。前任の小役人は同じ圧力に負け、辺境へ左遷されていた。征志の机にも、すでに左遷命令の白紙が置かれている。
彼は三枚の紙の端を揃え、数量の欄へ細い糸を渡した。二百、百六十、二百四十。糸は一度も真っすぐにならない。列席者にも数字の食い違いが一目で見えた。商人が大声を出すほど、三枚の静かな紙のほうが強くなる。正午の鐘が一つ鳴るまで、征志は判を持つ手を下ろさなかった。
財務官に肩を押された征志は、前世の購買部で使っていた三枚の確認を思い出した。
注文書。受領書。請求書。
机の上へ横一列に置く。
注文書は二百本。門衛が署名した受領書は百六十本。商人の請求書は二百四十本。
同じ数字が一つもなかった。訓練場で待つ弓兵たちにも三枚を見せると、百六十本しか数えていない倉庫係が、ついに目を伏せた。
征志は朱筆で、三枚すべてに共通する百六十だけを囲んだ。払えるのはその分、金貨三百二十枚。残る八十本分には、注文も受領もない。
武器商人は「追加注文は口頭だった」と叫ぶ。財務官も頷いた。しかし追加したという日、注文権を持つ将軍は北砦にいた。注文書の印もない。
衛兵が商人の荷車を調べると、王城へ納めたはずの八十本がそのまま積まれていた。架空の請求で金貨百六十枚を分け合う予定だったのだ。
財務官の袖から、商人と同じ赤い封蝋が落ちた。
国王は支払命令書を征志の前で破り、百六十本分だけの新しい紙へ署名した。差額はぴたり百六十枚。
「三枚を見るだけで、余の金庫を守ったか」
王は購買局長の印章を外し、征志へ渡す。
「今後、三枚そろわぬ物には一枚も払うな。今日からお前が局長だ」