三枚目の証明写真

藤森汐里は一日だけの外出で、駅前の証明写真機へ向かった。

写真が必要な手続きはない。免許証の更新も、履歴書を書く予定もなかった。撮るのは祖母の財布へ入れる一枚だ。祖母は十年前の学生証写真を透明ポケットに差し、買い物先で会う人へ見せては「孫」と言う。前髪を自分で切りすぎ、片方の眉が全部出ている写真だった。

「その写真でいい」と祖母は言った。汐里は、よくないとだけ答えた。

外出許可は午後四時まで。病院の鏡で帽子をかぶるか迷い、結局かぶらなかった。治療で薄くなった髪を耳へかけ、眉だけ描いた。祖母は古い写真の失敗した前髪も気にしていない。今の髪を隠す理由もなかった。

写真機のカーテンを閉めると、外の雑音が薄くなった。椅子を一番高くしても、画面の丸へ顔が合わない。クッションを敷き、顎を少し上げる。

「撮影します」

機械の声は明るすぎた。一枚目は目を閉じた。二枚目は咳を我慢して口元がゆがんだ。三枚目の直前、外から子どもの笑い声がして、汐里はそちらへ目を動かしかけた。戻した瞬間に光った。

四枚目はきれいに撮れた。背筋も伸び、口角も同じ高さだった。けれど画面に並んだ四枚を見て、汐里は三枚目を選んだ。まっすぐ見ているのに、少しだけ何かへ気を取られた顔。祖母が知っている汐里に近かった。

印刷を待つ間、機械の中で紙が動く音がした。出てきた写真は四枚つながっている。汐里は駅のベンチへ座り、持ってきた小さな鋏で三枚目だけ切った。切り口が斜めになり、もう一度細く整えた。

祖母の家では、本人が昼寝をしていた。起こさずに、食卓の上にある茶色い財布を開く。透明ポケットから学生証写真を抜くと、裏には祖母の字で名前と生年月日が書いてあった。

汐里は古い写真を捨てず、札入れの奥へ移した。新しい写真の角を丸く切り、透明ポケットへ差し込む。少し大きくて端が浮いたので、指の腹でゆっくり押し込んだ。

三枚目の顔が、透明な縁の中へきちんと収まった。