三百八十円のご褒美

彩葉は、コンビニの冷蔵棚の前で三分ほど立っていた。

手にしているのは、三百八十円の小さなモンブラン。夕食用の豆腐バーとおにぎりより高い。棚へ戻しては、また取る。給料日まであと四日。残高は困るほど少なくないが、贅沢をしたという罪悪感は、金額に関係なくついてくる。

今日は営業成績の月間表が共有された。彩葉は目標を達成していたが、隣の席の先輩はさらに上だった。上司からは「次は一位狙えるね」と言われた。褒められたはずなのに、帰り道ずっと、まだ足りないと言われた気がしていた。

結局、モンブランをかごに入れた。レジで合計金額を聞いた瞬間、やはり戻せばよかったと思う。けれど店員はもう袋に入れていた。

部屋に帰り、豆腐バーの包装を開ける。味はバジル。健康的で、手軽で、少し寂しい。おにぎりも食べ終えると、腹は満たされたが、今日が終わった感じがしなかった。

モンブランの透明なふたを外す。クリームの上に、細い栗の線がきれいに重なっている。誰かの誕生日でも、達成祝いでもない。写真に撮って投稿するほどの理由もない。

彩葉はスプーンを入れる前に、家計簿アプリを開いた。「食費」の欄に八百二十円と入力すると、今月の予算が赤くなった。

赤い数字を見ていると、上司の「次は」が重なった。次はもっと。来月は節約。明日は早起き。いつも今日の自分が、未来の自分のために我慢している。

彩葉は家計簿のメモ欄に「よくやった」と書いた。項目名を「食費」から「夕食と労い」に変える。赤い表示は消えない。それでも、数字の意味は少し変わった。

モンブランは甘く、底に小さなスポンジが隠れていた。彩葉は急がずに食べた。

一位ではないし、予算も守れなかった。けれど今日を終えるために三百八十円使った。それくらい、自分に許していいと思えた。

容器の底についたクリームをスプーンで集める。彩葉は「ご褒美」という言葉さえ大げさに感じ、ただ「今日食べたかったもの」と言い直した。頑張った証明がなくても、欲しいものを選ぶ権利くらいは最初からあった。