九十秒ごとの返事

会計士の柘浦のアカウントが、機密書庫の端末からオンライン理事会へ接続した。資料を映せないためカメラは切られ、開始後はチャットだけで返事が続いた。二十二分後、反応が止まり、警備員が開けると柘浦は机に伏して死んでいた。死後少なくとも一時間が経過していたが、会議中には七通の返事が届いている。

容疑者は娘の月居、共同経営者の戸隠、秘書の巻向。三人とも会議へ出席し、柘浦が残した監査報告で利益を失う。書庫の扉は外から閉めても自動で施錠されるため、犯人は会議前に退出できた。それでも死者が打った七通が壁になる。

七通はいずれも「了解」「続けて」「その案でよい」といった短文で、柘浦らしい無愛想さまで再現していた。月居は父が機嫌を損ねると同じ言葉を繰り返すと述べ、戸隠は会議中に不自然さを感じなかったと言う。巻向は議事進行表を作るのが自分の仕事だと認めたが、殺害との関係は否定した。

チャット履歴から拾うべき手掛かりは三つだけだった。

第一に、七通はすべて九十秒きっかりの間隔で送信されていた。

第二に、四通目の「赤字の三頁を承認する」は、戸隠が赤字入りの改訂版を共有する二十秒前に届いていた。

第三に、会議システムの予約送信一覧は巻向の秘書端末で作成され、七件すべてが前夜に登録されていた。

月居は唇を噛んだ。「返事ではなく、予定表だったのね」巻向は、柘浦がよく使う短文だけを並べていた。

私は七通を時系列から外した。巻向は前夜、会議の進行予定に合わせて九十秒間隔の文を予約し、当日は開始前に柘浦を殺して書庫を出た。四通目が未共有の改訂版へ先回りしたのは、巻向が版の共有時刻まで予定していたからだ。一定間隔は自動送信を、先走る文は事前作成を、端末記録は作成者を示す。書庫端末が接続していたことも、柘浦が生きていた証明にはならない。会議に残ったのは本人ではなく、秘書が組んだ二十二分の時刻表である。 死者の沈黙を隠したのは文章の内容ではなく、規則正しい時刻だった。