九台ではなく七台

複合機営業の鳴海千歳は、法律事務所から九台一括更新の依頼を受けた。

「他社は月額を三割下げた。今日中に同条件を」

所長は比較表を机に置いた。千歳の上司は、リース料率を下げれば取れる案件だと朝から言っていた。

千歳は九台の型番ではなく、各機のカウンター料金の明細を見せてもらった。三階の二台だけ印刷枚数が突出している。逆に会議室前の二台は月に百枚も使われていなかった。

「三階は訴訟資料です。部外者に見られないよう、認証印刷を使っている」

他社の最安機には、その機能がなかった。所長は知らなかった。総務が比較表から機能欄を削り、月額だけを残していたのだ。

千歳はフロアを歩き、紙を取りに行く職員の流れを十五分見た。七台に減らしても、廊下の端に一台移せば待ち時間は増えない。三階の二台だけは上位機種を残し、認証印刷を継続する。会議室前の二台をなくせば、本体価格だけでなく保守の基本料も消える。

「九台売る営業が、七台を勧めるのか」

所長が笑った。

「九台を安くすると、使わない二台にも六年払います」

千歳はさらに、古い機械を一斉撤去せず、一台だけ一週間残す手順を加えた。新機種で古い訴訟資料が印刷できない場合、期限前日に気づいても戻せないからだ。

千歳は新機種で一枚だけ機密文書の試し刷りを行い、本人が端末の前へ来るまで紙が出ないことを所長に見せた。機能名の説明より、誰もいない排紙口に何も残らない光景の方が早かった。

総務主任は他社へ電話し、認証印刷の有無を確認した。返答を聞く前に顔色が変わった。

契約は七台で決まった。所長は、減った二台分の場所を資料保管棚に戻すよう総務へ指示した。売上は当初見込みより減ったが、所長は別拠点の更新も千歳へ任せると言った。

搬入日程を決め終えた午後六時、サービス担当から内線が入った。

「鳴海さん、別のお客様で紙詰まりが多いそうです。機械は正常なんですが」

千歳は九台分の提案書を破棄し、裏面に現場の湿度と用紙の保管場所を書き始めた。