予約のない百一号室

午後十一時、海沿いのホテルで、同じ客が三組ずつ到着した。

夜勤フロントの薬袋理人は、予約表に「佐伯様」が三行、「遠藤様」も三行並ぶのを見た。どれも予約番号は違うのに、電話番号と希望の部屋は同じだ。満室まで残り四室。若い係員は、先にカード決済された予約から部屋を割り当てようとした。

理人は止めた。「決済も三回通っているかもしれない。今、追加で触らないで」

外部予約サイトからホテルへ情報を送るAPIが、夜の回線遅延でタイムアウトしていた。返事が来ないたび、予約サイトが同じ申込みを再送している。本来は同じ依頼を一度だけ処理する冪等性が必要だが、更新後の連携では予約番号が毎回作り直されていた。

理人は名前だけで消さず、予約時刻、電話番号、宿泊日を一組ずつ照合した。客には「予約がない」とも「三部屋あります」とも言わず、ロビーのソファへ案内して飲み物を出した。焦った客の前でシステムの都合を説明すると、不安だけが増える。

重複を消す間、理人は決済端末の返金を先にしなかった。予約サイト側が後から自動取消を行えば、返金まで重なるからだ。部屋だけ一件にまとめ、決済は朝の経理が原記録と突き合わせるよう保留にした。

三組目の客を本来の一室へ案内したとき、残室は四室のままだった。重複予約で客室清掃へ三度同じ指示が飛んでいたため、理人は清掃表も一件に戻した。画面の数字だけ直しても、裏側の人の仕事までは自動で戻らない。係員が感心したように言う。

「予約を消しただけなのに、部屋が増えたみたいですね」

「増えてない。最初からなかった部屋を、売らずに済んだだけだよ」

午前零時を過ぎ、外部サイトの連携を停止した。理人が手書きの空室札をカウンターへ置くと、自動ドアが開いた。

濡れた制服の高校生たちと引率教員が入ってくる。乗っていたバスが故障し、二十七人分の宿を探しているという。

理人は四枚の空室札を見下ろし、宴会場の鍵を取り出した。予約システムが眠っても、ホテルは客を断るために起きているのではなかった。