二つの目覚まし時計

三枝瑠香の目覚まし時計は、午前五時四十分に鳴る。

貴文の時計は、午前九時十五分に鳴る。

同棲を提案された夜、二つの時計は瑠香の部屋のテーブルで、四時間近い差を表示していた。

貴文は夜型で、明け方まで映画を見ている。瑠香は朝に走り、十時には眠くなる。週末だけ泊まる今でさえ、どちらかが音を消し、足音を忍ばせていた。

「寝室を分ければいいよ」

瑠香が言うと、貴文は家賃の一覧を見ながら眉を上げた。

「二人で住むのに二DK? 一LDKなら駅前の新築に住めるよ」

不動産会社から届いた二件のメッセージには、対照的な部屋が添付されていた。駅前の一LDKは白く明るく、寝室は一つ。川沿いの二DKは築三十五年で、駅まで十九分。代わりに襖で仕切れる部屋が二つあった。

二十九歳なら、多少の生活習慣は合わせられるはずだ。そう考えて一LDKを選ぶ未来も見えた。瑠香が早起きをやめるか、貴文が夜更かしをやめる。愛情の名で、どちらかが少しずつ眠れなくなる。

川沿いの部屋を選べば、通勤も買い物も不便になる。古い給湯器が冬に壊れるかもしれない。別々の部屋で眠るうち、同居人のようになるかもしれない。

瑠香は入居申込フォームの物件番号へ、川沿いの番号を入れた。

「私はこっちでしか暮らせない。貴文が一LDKじゃなきゃ嫌なら、今回は住まない」

送信前の画面を見せると、貴文は二つの時計を手に取り、古い間取り図の別々の部屋へ一つずつ置いた。

「寝坊したら起こして」

「扉越しにね」

契約前の夜、瑠香は午前五時四十分に自分の時計を鳴らしてみた。貴文は布団の中で顔をしかめ、やがて笑った。翌朝九時十五分には、今度は瑠香が彼の電子音で起こされた。たった一泊でも、好意だけでは吸収できない差がある。それを小さく見せないことから始めたかった。

瑠香は申込みを確定した。遠い駅も、閉じた襖も、二人が別々の時間を持つことで生まれる寂しさも、契約書には書かれない。それらを読んだつもりで、送信ボタンを押した。