二件の予約通知

美緒里のスマートフォンには、同じ土曜日の予約通知が二件並んでいた。

午前十時、結婚指輪の受け取り。午前十時半、転職先の最終面談。

面談はオンラインへ変更できる。ただし先方からは「可能なら対面で」と言われている。指輪は颯斗一人でも受け取れる。けれど内側に刻んだ日付を、二人で最初に見ようと約束していた。

颯斗から〈僕が受け取っておくよ〉と届き、採用担当から〈対面参加をおすすめします〉と届く。二つのメッセージは、どちらも美緒里を責めていなかった。

だからこそ、自分で決めるしかない。

今の会社に不満があるわけではない。転職すれば年収は上がるが、結婚後もしばらく忙しくなる。面談へ行くこと自体が、「暮らしより仕事を選ぶ」という宣言のように思えた。一方で指輪を取りに行けば、安心できる未来を選んだ証明になる気もした。

指輪店からは、受取時に刻印を確認してほしいと注意書きが届いていた。面談先からは、入社後の三年計画を聞くと書かれていた。片方は日付を刻み、片方はまだない年月を話す場所だった。

二十九歳を目前にして、美緒里は何をしても意味をつけすぎていた。土曜日の一時間が、残りの人生を代表するはずはない。それでも、選ばなかった一時間は戻らない。

予約時刻が近づくたび、二つの通知は同じ音で鳴る。その無神経な平等さが、今はありがたかった。

美緒里は採用担当へ電話した。

「面談を辞退します」

理由を聞かれ、「現職に残るため」と答えた。結婚の予定は口にしなかった。颯斗のために辞退したことにすれば、いつか後悔したとき責任を渡してしまう。

電話を切ると、颯斗へ〈一緒に取りに行く〉と送った。

〈本当に?〉

〈うん。ただし、私が決めた〉

少し冷たい文になったが、消さなかった。

土曜日、予約画面の面談通知を削除する。指輪の通知だけが残った。失った可能性を見ないふりはせず、求人ページのブックマークもそのままにした。

美緒里は指輪店までの地図を開き、自分で閉じた扉の前を通っていく道を選んだ。