二十七番ロッカー
十五時二十分。新幹線の発車まで十分だった。
蟹江遥真は、真壁沙知の赤い旅行鞄を二十七番ロッカーへ入れた。彼女が飲み物を買いに行ったあいだ、「先に預けて」と頼まれたのだ。
〈鞄、二十七番。暗証番号はいつもの四桁〉
送信。未読。
「いつもの四桁」は、二人が付き合い始めた日だった。喧嘩をしてから三週間、その数字を使う資格がまだあるのか、遥真には分からない。
今日、沙知が時間どおり来れば、二人で東京へ移る。来なければ、遥真だけが行く。そう決めたのは彼女の方だった。
十五時二十三分。改札前に沙知はいない。
遥真はもう一度送る。
〈ホームに上がる。来ないなら、部屋も一人用で契約する〉
未読。
ポケットには二枚の指定席券がある。隣り合う十二号車の窓側と通路側。沙知はいつも窓側を譲らず、眠ると遥真の肩へ倒れてきた。券の角には、彼女が爪でつけた小さな折り目がある。
十五時二十六分、発車案内が点滅した。
遥真は二枚の券を自動改札へ重ねかけ、一枚だけ通した。
十五時二十八分。ホームの階段を上がったところで、構内放送が流れる。
「二十七番ロッカー付近でお待ちの蟹江遥真様――」
足が止まった。
続けて携帯に、公衆電話からの留守番電話通知が入る。
『遥真、私のスマホ、鞄の外ポケットに入れたままロッカー閉めたでしょ。暗証番号を送られても読めない。係の人を呼んでる。置いていかないで』
録音は十五時二十二分。通知が届くまで六分かかっていた。
遥真は階段の下を見た。人波の向こうで、沙知が駅員とロッカーを指している。距離は走れば一分。発車ベルまでは、あと一分半。
彼女は来なかったのではない。最初から、遥真が閉じた扉の前にいた。
十二号車のドアが開く。遥真は未使用の指定席券を握りしめた。紙の中では、二人の席がまだ隣り合っている。
沙知がこちらに気づき、手を振った。
遥真も手を上げた。呼び戻すためではなく、別れを知らせるために。
十五時三十分。彼は一人分の券で新幹線に乗り、もう一枚を網棚の旅行鞄にしまった。