二部屋目のない間取り
水沢未映は、二枚の間取り図を重ねていた。
一枚は一人用の1LDK、もう一枚は小さな二部屋の2DK。小暮廉司が引っ越すための内見に、付き添っただけだった。不動産会社の閉店まで十二分。担当者は奥で契約書を準備している。
廉司は離婚経験者だった。前の結婚は、子どもを持つかどうかで終わった。正確には、検査で廉司に原因があると分かり、元妻は母親になる未来を諦められなかった。誰も悪くないと彼は言う。その言い方が、未映にはいちばん苦しかった。
未映も、いつか子どもが欲しいと思っていた。けれど廉司を好きになった今、その「いつか」が絶対なのか分からない。分からないまま好きと言えば、後で彼を責めるかもしれない。だから言えなかった。
未映は姉の子どもを可愛がり、廉司もそれを知っていた。公園で小さな靴を追う未映を見ると、彼は決まって少し離れた場所へ下がった。思いやりのつもりで互いの未来を先回りし、傷つく前に相手を手放そうとしている。その似た癖だけは、二人ともまだ認めていなかった。
「1LDKにする」
廉司が二部屋の図面を脇へよけた。
「決めたの?」
「一人なら十分」
「先週は迷ってた」
「未映は子ども欲しいだろ」
「まだ決めてない」
「答えが出てないなら、俺を選ばない方がいい」
短い言葉が、テーブルの上に落ちた。担当者が戻るまで、別の話題では埋められない。
「どうしてあなたが決めるの」
「また同じことになるのが怖い」
「私だって怖い。欲しかったって後悔するかもしれないし、あなたを諦めたことを後悔するかもしれない」
廉司は二部屋の間取り図を裏返した。
「じゃあ、何なら言える?」
「決めてない」
二度目は逃げではなかった。
「でも、決めてない私を、あなたが先に不合格にしないで」
担当者が契約書を持って戻り、「どちらのお部屋になさいますか」と尋ねた。
廉司が答える前に、未映は二枚とも手元へ引いた。
「今日は決めません」
閉店時刻のチャイムが鳴る。未映は一人用の図面も二部屋の図面も折らず、透明なファイルへ並べて入れた。廉司の連絡先を開き、消しかけていたピン留めを元に戻してから、二人で店を出た。