五つの封印、一射
「五封巨人は五人同時押し前提」
「一個でも〇・一秒ずれたら無敵解除されない」
「星崎環、ソロ申請の時点で詰み」
星崎環は弓を構えず、ボス部屋の入口で小石を五つ転がした。
円形闘技場の壁には赤、青、黄、白、黒の封印石。中央の五封巨人ペンタゴラムは、五色が同時に砕けた瞬間だけ核を露出する。各石の距離も高さも違うため、攻略隊は五人の射手を揃えるのが常識だった。
環は配信画面へ透明な線を引く。彼女は大会で《直線しか撃てない弓手》と笑われ、代表から外されたことがある。だから三年間、壁、鎧、雨粒に当てて矢を曲げる練習だけを続けた。今日の一本は、外された時間すべてを折り畳んだ軌道だった。
赤から青、青から天井の金具、黄、白、最後に黒。小石の跳ね方で床の傾きまで確かめると、一本だけ矢をつがえた。
「一射で五個は無理だろ」
「貫通矢でも直線上にない」
「今の線、反射経路か? でも石ごとに必要威力が違うぞ」
巨人が動き出した。配信画面の予測線は揺れていないが、環の指先には弦の震えが伝わっていた。外せば矢はもうない。彼女は予備を持たないことで、迷いまで矢筒から抜いてきた。
一歩ごとに床が浮き、環の足元へ亀裂が迫る。彼女は呼吸を一度止め、弦を耳の後ろまで引いた。
放つ。
矢は赤い石を掠め、魔力を赤へ変える。
青い石の縁で弾かれ、青を重ねる。天井の金具に当たって急角度で落ち、黄色い石を貫いた。速度を失ったはずの矢は、白い封印の加速術式を受けて再び走り、最後の黒へ突き刺さる。
五つの音は、配信の波形では一本の針になった。
巨人の胸が開く。
五色を帯びた矢は黒い石を抜けたあと、そのまま中央へ戻り、露出した核を射抜いた。巨体が膝から崩れ、闘技場の外周へ五色の光が広がる。
「同時判定、誤差〇・〇〇〇秒!」
「封印石の属性を矢に積んで、最後に核まで持っていった」
「五人分どころか、六射目まで一本で済ませたぞ」
「軌道計算、手描きだったよな……?」
環は空になった矢筒を逆さにした。最初から一本しか入っていない。
公式記録の討伐人数欄が、五から一へ静かに更新された。