代筆の句読点
「ラブレターを書いてくれ」
昼休み、野球部の友人が原稿用紙を机へ置いた。
字が汚いから。文章が苦手だから。三年間好きだった相手に、卒業前に伝えたいから。
断る理由はいくつもあったが、彼が珍しく真剣だったので引き受けた。
「何を書けばいい」
「好きです、とか」
「それなら自分で書けるだろ」
結局、彼から思い出を聞き出した。文化祭で段ボールを運んでもらったこと。雨の日にタオルを貸してもらったこと。試合で負けた翌日、何も聞かずに飴をくれたこと。
僕はそれを文章へ整えた。
『あなたの前では、格好悪いままでも平気でした。』
そこまで書いて、手が止まった。
それは友人の気持ちではなく、僕が彼女に対して思っていたことだった。
同じ相手を好きだと気づいたのは、去年の文化祭。友人には言えなかった。
「続きは?」
「自分で書け」
原稿用紙を返すと、友人は一行目から読み、にやりとした。
「やっぱり、お前の文章だ」
「当たり前だろ。代筆なんだから」
「じゃあ、これでいい」
放課後、彼はそのまま封筒へ入れた。止める間もなく、彼女の下駄箱へ差し込む。
「名前、書いてない」
「わざと」
「何してるんだよ」
友人は僕の背中を押し、物陰へ隠れた。
やがて彼女が来た。封筒を見つけ、その場で開く。文章を読み進めるうち、顔が少しずつ赤くなった。
「これ、誰が書いたの」
友人が出ていき、僕を指した。
「文章は全部こいつ。思い出も、半分はこいつの」
僕は声を失った。
実は友人は、彼女に告白するつもりなどなかった。僕が彼女を目で追うたび、ずっと気づいていたらしい。
「代筆頼めば、本音を書くと思った」
「最低だ」
「成功報酬はジュースでいい」
彼は笑って去った。
昇降口に、僕と彼女だけが残った。
彼女は原稿用紙の一文を指でなぞった。
「この句点の打ち方、前から知ってた」
「どうして」
「クラス文集。図書委員のお知らせ。文化祭の台本。全部同じ」
彼女は顔を上げた。
「だから、最初からあなたの手紙だと思った」
僕は友人の思い出として書いた言葉を、今度は自分の声で言い直した。
格好悪いほど、句読点が多くなった。
翌日、友人へジュースを三本おごった。一つは代筆料、一つは成功報酬、もう一つは余計なことをした罰だった。