仮面を脱ぐ時
檜垣鏡子は、自分の顔を覆う銀の仮面を床へ叩きつけた。
残り三秒。鳴滝蓮司、田麦小夜、牧布昴も、反射的に留め具へ手をかける。
「脱ぐな!」
主催者の叫びが響いた。
壁の規則は一文だけだった。
《最多票を受けた仮面を着けている者を処刑する》
四人にはそれぞれ、銀の月、黒い鳥、赤い花、白い獣の仮面が与えられていた。票には人名でなく、仮面の紋章を書く。鏡子の銀月には三票が集まるはずだった。仮面の裏には名前も番号もなく、個人と結ぶものは着用だけだった。
鳴滝が「最も冷静なやつから消す」と提案し、小夜と昴が従った。鏡子は自分の一票を黒鳥へ入れたが、覆らない。三対一。
だから彼女は、集計前に仮面を脱いだ。
「仮面は外せない装置だと思った?」
鏡子は小夜の留め金も引き抜く。実際には舞台衣装と同じ蝶番で、指一本で外れた。首輪の方が恐ろしく見えたため、誰も仮面を調べなかったのだ。
終了音。
投票結果、銀月三、黒鳥一。
天井から赤い照準線が降り、銀月の仮面を探す。床の上で光が何度も往復した。
《銀月を着けている者を検索》
《該当者なし》
鳴滝が自分の黒鳥を投げ捨てる。小夜と昴も続いた。四つの素顔だけが、冷たい照明の下に残った。
主催者が声を荒らげる。
《仮面は参加者を識別するためのものだ。票は実質的に人物へ――》
「実質は関係ない」
鏡子は床の銀月を靴先で裏返した。
「規則が殺すのは『銀月に投票された人』じゃない。『最多票を受けた仮面を、集計時に着けている者』よ。人と仮面が同じだと思わせたのは、あなたたち」
処刑装置は対象を得られないまま終了処理へ移り、四つの首輪を解除した。
開いた扉の向こうから白い光が差す。鳴滝が、さっきまで殺そうとした鏡子へ尋ねた。
「なぜ俺たちの仮面まで外した」
「次の瞬間、床の仮面を誰かに被せる人が出るから」
鏡子は仮面を蹴って部屋の中央へ集めた。
「多数決より怖いのは、票が人間に貼りついたままだと思うことよ」