会員番号零番
「会員証を拝見します」
魔導師ギルド本部の受付には、青銅の自動人形エッダが座っている。
表情は変わらず、声も一定。年会費の滞納を告げ、杖の持ち込み許可を確認し、どれほど高位の魔導師にも整理券を取らせる。その融通の利かなさは、本部名物だった。賢者たちは「創設者なら自分だけは通すはずだ」と冗談を言うが、そのたびエッダは「創設者も例外ではありません」と答えた。
書庫番の青年ネリスは魔力を一滴も持たないため、彼女の整備係まで押しつけられていた。
ある朝、紫衣の大魔導師が列を割って進み出た。
賢者院を追放されたヴァルグである。彼は会員証の代わりに、赤い水晶を受付台へ突き立てた。
「創設者権限を奪取する。今日からこのギルドは私のものだ」
水晶から支配術式が広がり、館内の魔導師は全員、石像のように止まった。
魔力のないネリスだけが、書架の陰から見ていた。
エッダの硝子眼が一度だけ明滅する。
「照合します」
ヴァルグが勝ち誇った次の瞬間、受付台の奥から無数の古代文字が立ち上がった。大魔導師の術式を包み、一文字ずつ削除していく。最後に残った《所有者》の欄へ、エッダは機械の指で署名した。
《エッダ・零番。設立者。全権限保有者》
人形が人間に作られたのではない。
魔法を人の独占から解放するため、自らを造り、自らギルドを設立した最初の魔導生命。それが受付係エッダだった。
彼女はヴァルグの水晶へ返却印を押す。
大魔導師の七つの位階、奪った術、偽造した資格が音もなく剥がれ、赤子ほどの魔力だけが残った。本人は何が起きたか理解できないまま気絶する。
エッダは壊れた水晶を廃棄箱へ入れ、床の術式を布で拭いた。館内の時間が再び動くと、皆はヴァルグが魔力切れで倒れたのだと笑った。
ネリスにだけ、彼女は小さく首を向ける。
「整備記録には、異常なしと記載してください」
初めて頼まれた秘密に、青年は黙ってうなずいた。
衛兵に運ばれるヴァルグの懐から、期限切れの札が落ちる。
エッダはそれを拾い、いつもの声で告げた。
「会員証を拝見します」