先生を待つ画面
【オンライン家庭教師〈ヨルマナ〉運営】
21:03 越智千尋
講師への未払い、全員分振り込んだ。会社口座の残高は四百十一円。
21:04 瀬戸健伍
広告費の請求は?
21:05 森下彩花
私が立て替える。これで終わりにしよう。
〈ヨルマナ〉は、夜に質問したい中高生と大学生講師を十五分単位でつなぐサービスだった。料金は安く、講師には「空き時間が収入になる」と説明した。けれど生徒が増えるほど、質問の割り振りと本人確認に人手が要り、三人は講師への支払いを一か月遅らせた。遅れを隠したまま、新規登録キャンペーンだけ続けた。
21:08 健伍
彩花が払う話じゃない。会計は俺。
21:09 彩花
営業で「安心して働けます」って言ったのは私。
21:10 千尋
システムを止めなかったのは私。
責任を三等分する文章が並び、誰も少しも軽くならなかった。
21:14 健伍
春から会計事務所。支払日を守る仕事をする。
21:15 彩花
私は塾。画面じゃなく、教室で生徒の顔を見る。
21:16 千尋
公立中の先生になる。数学。
21:17 彩花
三人とも教育から逃げないんだ。
21:18 千尋
逃げたら、失敗が私たちだけのものになるから。
画面右側には、待機中の講師数〈0〉、質問中の生徒数〈1〉と表示されていた。サービス停止時刻を過ぎているのに、一人だけ接続している。
21:22 健伍
誰かいる。
千尋が質問を開く。〈連立方程式が分かりません。先生は来ますか〉。無料体験の中学生だった。三人は迷った末、ビデオ通話をつないだ。
健伍が式を書き、彩花が言葉を補い、千尋が答えを急がせない。十五分の枠を三十分使い、生徒が「分かった」と笑ったとき、料金は発生しなかった。
21:58 彩花
これが最初からできてたらね。
21:59 健伍
できてたら会社にならない。
22:00、千尋がサービスを停止した。健伍が退出し、彩花の花のアイコンも消える。
管理画面には〈先生を探しています〉という丸い表示だけが回り続けた。待っている生徒はもういないのに、停止したはずの画面は、誰かが返事をするまで終われないようだった。