入力中の三点

灯里は、年末用の小さなスーツケースに靴下を詰めていた。行き先は実家ではなく、大学時代の友人が住む海辺の町だった。

母から〈二十九日は何時の新幹線?〉と来た。

灯里は畳んだセーターを入れ、ファスナーを半分閉める。

〈今年は帰らないよ〉

〈前に伝えた通り、友達のところへ行く〉

送った瞬間、母のアイコンの下に「入力中…」と三つの点が現れた。消えて、また現れる。

灯里はその点を見るたび、言い訳を追加してきた。仕事が忙しかった、切符がもう取れない、春には帰る。先に詫びれば、母の言葉が少し軽くなる気がしていた。

今回も〈ごめん〉と打った。だが送らずに消した。

三つの点はまだ動いている。

スーツケースの隅に、母が去年持たせた赤い腹巻きがあった。「冷やすと結婚できない」と笑いながら押し込まれたものだ。灯里はそれを取り出し、返却用の紙袋へ入れた。

母からのメッセージは来ない。入力中の点だけが、責める言葉を無限に作っていた。

灯里はスマートフォンを伏せ、洗面道具を詰めた。充電器も入れ、ファスナーを最後まで閉める。

十分後、ようやく通知が鳴った。

〈お父さんにはあなたから言って〉

灯里は画面を見た。

〈今年帰らないことは、私から父にも送る〉

〈でも、母さんの機嫌の説明はしないよ〉

また三つの点が現れる。灯里はもう待たなかった。父へ短い連絡を送り、紙袋に「返す」と書く。

玄関でコートを着たところで、母から一行届いた。

〈分かった。鍋は二人分にする〉

予約済みの切符は、画面の別のタブに表示されていた。灯里は何度もそのスクリーンショットを母へ送ろうとした。払い戻せない証拠があれば、帰らない決断を認めてもらえる気がしたからだ。けれど送れば、今度は友人の住所や滞在日程を聞かれる。灯里は切符を閉じた。理由が十分だから行くのではなく、自分が選んだから行く。その順番を守りたかった。

灯里は〈うん〉だけ返した。許されたのではないし、勝ったわけでもない。三人分だった鍋が二人分になる。その空いた一人分を、今年は自分の旅に使うことにした。