写真には写らない五分間
写真部の彼女は、夕暮れを「五分しかない色」と呼んだ。
放課後、私は校舎裏へ連れ出された。
「そこに立って」
「制服しわだらけだけど」
「そのほうが学校っぽい」
彼女はカメラを構えた。オレンジ色の街を背に、私の影がコンクリートへ長く伸びる。
私は写真が嫌いだった。
春に長く入院し、学校を休んだ。戻ってきたとき、クラス写真には私のいない時間ばかり残っていた。見るたび、自分だけ途中から参加した人のように感じた。
彼女は何度もシャッターを切った。
「笑わなくていい」
「笑ってない」
「もっと嫌そうな顔して」
「注文がおかしい」
少し笑った瞬間、カメラの電源が落ちた。
「うそ、電池」
彼女は鞄を探したが、予備は部室に置いてきたらしい。
「取りに行けば?」
「戻ったら色が終わる」
私たちは仕方なく、校舎裏の段差へ座った。
カメラのない写真部員は、急に話すことがなくなる。彼女はレンズのふたを何度も外しては戻し、私は自分の長い影を靴先でなぞった。
オレンジ色の街が、少しずつ紫へ変わった。私の影も、彼女の影も輪郭を失っていく。
「休んでる間、何が一番嫌だった?」
彼女が聞いた。
「みんなが先へ進むこと」
「戻ってからは?」
「追いついたふりをすること」
初めて口にした。
彼女はうなずいただけだった。
「写真、撮りたかったの?」
「うん。でも今の話のほうが大事かも」
「写真部なのに」
「写らないものを忘れないために、写真撮るんだよ」
街灯が点いた。
五分しかない色は終わった。
「今日、何も残らなかったね」
私が言うと、彼女は空のカメラを持ち上げた。
「残った。撮れなかったこと」
翌日、彼女は昨日の写真を見せた。
電池が切れる直前の一枚に、私は少し笑っていた。背景のオレンジはきれいだったが、彼女はそれを展示しなかった。
代わりに、文化祭の写真展へ真っ黒な一枚を出した。
題名は『五分間の欠席』。
説明文には、
『写真には写らない時間も、その人の学校生活である』
と書かれていた。
私はその前で、昨日より自然に笑えた。