写真一枚ぶんの帰省
金曜の二十時半、眞帆は実家の最寄り駅の写真をグループチャットに送った。
〈改札、こんな色になったらしい。年末みんな帰る?〉
地元の同級生四人で作ったグループだ。上京した時期も、住んでいる町も違う。去年の年末は二人だけ会えた。その前は感染症で流れ、さらに前は誰かの仕事が入った。それでも秋になると、眞帆が最初に「帰る?」と聞くのが習慣になっていた。
送信してから四十五分、既読はつかなかった。
眞帆は鉄道会社の予約画面を開き、十二月二十九日の料金を見た。早割の残席は少ない。友人に合わせるなら待つべきだし、待てば高くなる。実家の母からはまだ何も聞かれていないのに、もう帰省全体の段取りを背負っている気がした。
夕飯は、切ったりんごとチーズだけだった。残業帰りに買ったレシートには、りんご一個、チーズ、炭酸水。店員が貼ったテープのせいで、合計金額の一の位が読めない。
りんごは少し粉っぽかった。芯の近くを薄く切りすぎて、種が一つ皿へ落ちた。眞帆はそれを端へよけ、一切れ食べるたび、画面を更新した。列車の座席表まで開き、窓側の残りを数えた。
地元に帰りたいのか、友人に会いたいのか、置いていかれていないと確かめたいのか、自分でも分からない。駅の写真も本当は偶然見つけたのではなく、自治体の投稿を一時間さかのぼって探したものだった。会話のきっかけになりそうな画像を、用意していた。
窓の外で、救急車ではない赤い灯りが道路をゆっくり横切った。向かいの建物に反射して消える。眞帆は炭酸水の蓋を開け、強すぎる泡にむせた。
予約画面を閉じる。今夜中に列車を決めなくてもいい。友人たちの返事を待つことと、自分が帰る日を決めることを、同じ問題にしなくてもいい。
チャットには、駅の写真が一枚だけ残っている。既読ゼロでも、眞帆が懐かしいと思った事実は減らない。
最後のりんごにチーズをのせる。年末の予定は空白のまま、金曜の夜だけを先に終わらせることにした。