削除予約は午前四時

雀部宗一技官の画面には、残り時間が赤く表示されていた。

三時四十二分。あと十八分で、情報屋・近衛ミカの暗号通話は自動消去される。ミカは闇市場の個人情報を県警へ売る代わりに、身元秘匿を保証されていた。昨夜の最後の通報で、彼女はその保証が破られたと告げた。

――三時十七分、私の偽名が警察の端末から検索された。三時二十一分、ドアの外に三人来た。早すぎるでしょう。

「検索者は分かるか」

――そっちで分かる。私は、検索結果を買う側だったから。

回線の向こうでガラスが割れた。

――消去設定を信じないで。四時になる前に、誰が私を売ったか見て。

そこで音声は終わる。宗一が照会監査を開くと、偽名の検索は副本部長のIDで実行されていた。端末は副本部長室。検索対象はミカの住所、保護担当者、緊急退避先の三項目だった。

情報管理課長が宗一の背後へ立った。

「テスト照会だ。副本部長のIDは秘書も使う」

「同時刻、秘書の職員証は退庁しています」

「だからといって副本部長が漏らした証拠にはならん。音声は秘匿協力者システム内のデータだ。外へ複製すれば、お前が不正持ち出しになる」

画面の残り時間は十二分になった。

宗一には管理者権限がない。保存期限を延ばせるのは課長以上だけだ。課長は腕時計を見ていた。何もしなければ、システムが正規手順で証拠を消す。誰も削除ボタンを押さずに済む。

「ミカは犯罪者です」と課長は言った。「何百人もの情報を売った。彼女を守るために副本部長を敵に回すのか」

宗一は答えず、障害解析用の隔離領域を開いた。本来は破損ファイルを検査する場所で、証拠保全には使えない。そこへ音声と検索ログを複製すれば、規程違反は自分の名で残る。

残り五分。

彼は二つのファイルのハッシュ値を紙へ書き、時刻認証局へ送った。次に隔離領域への複製を実行し、監察ではなく地方検察庁の緊急保全窓口へ認証値を通知した。

午前四時、元の音声は画面から消えた。宗一は消えなかった数字を証拠袋のラベルへ書き写し、自分の職員印を押した。