十一段目の荷物

古い家の階段は、十一段目だけ深く軋んだ。

祖母が亡くなり、孫娘は二階の荷物を整理した。

着物、裁縫道具、手紙、古い鞄。

残せば部屋が埋まり、捨てれば祖母まで薄くなる気がした。

段ボールを抱えて階段を下りると、十一段目で荷物が突然軽くなった。

箱の中身は、寄付すると決めた毛布だった。

次の箱には、売るつもりの食器。

十一段目でやはり軽くなった。

自分が持ち帰るつもりの着物は、重いままだった。

階段の十一段目では、誰かへ渡すと本当に決めた物だけが、一段ぶん軽くなるらしい。

孫娘は面白がって、品物を一つずつ運んだ。

口では寄付すると言いながら惜しんでいる皿は重い。

捨てると言い切った古雑誌も、祖母の書き込みを読みたいと思っている間は重い。

反対に、近所の子へ譲る絵本は羽のように軽くなった。

最後に、祖母の足踏みミシンが残った。

大きくて重く、孫娘の部屋には置けない。

処分業者へ頼むつもりだった。

引き出しには、祖母が縫い物を教えた近所の女性たちの名前が残っていた。

その一人は、外国から来たばかりで言葉が通じない頃、祖母の家へ毎週通ったという。

今は商店街で服の直し店をしている。

孫娘はその人へ電話した。

「古いミシン、要りますか」

相手は長く黙り、

「欲しい。でも、もらう資格があるか分からない」

と答えた。

二人でミシンを運んだ。

十一段目へ差しかかる。

まだ重い。

孫娘の心のどこかに、祖母の物を手放す寂しさが残っていた。

「やっぱり、写真を一枚撮っていいですか」

撮影し、祖母がいつも足を置いた板を撫でた。

「今までありがとう。次の服を縫ってね」

その瞬間、ミシンは一段ぶんだけ軽くなった。

直し店の窓辺で、ミシンは再び動き始めた。

祖母より若い足が踏み、子どもの制服や、破れた鞄を縫った。

孫娘は時々、修理を頼むふりで見に行った。

家の階段は取り壊された。

十一段目だけを残し、小さな踏み台にして店へ贈った。

そこへ上がると、どんな荷物も軽くならない。

物を軽くしたのは木の段ではなく、渡すと決めるまでにかかった気持ちだったのかもしれない。

それでも孫娘は、誰かへ何かを譲る日、心の中で十一段目を一つ下りる。