十三枚の赤布
ミサ・コルパの軍旗には、赤い四角布が十三枚縫われていた。
一枚が一つの谷、一枚が百人の兵を表す。布を数える者には兵の顔は見えない。その冷たさが、旗の便利なところだった。敵は高地の戦をよく知っていた。旗の布片が減れば、その谷の隊が潰れたと読む。
夜までに、五枚が失われた。
戦死者の小旗は崖下へ落ち、回収できない。城門の前には、明朝の通行を求める敵使が来ている。降伏交渉と称して、十三枚を数えるためだ。
若い隊長はミサへ言った。
「残った八枚で立て。嘘をつけば、使者に近くで見抜かれる」
「八枚なら、交渉は要りません。夜明けに攻めて来ます」
ミサは自分の赤い外套を脱いだ。父の谷で織られたものだった。五つに切れば、遠目には失われた布片を戻せる。
「織りが違う」と隊長が言った。
「敵使は目で見ません。指で触ります」
ミサは死んだ旗持ち五人の血を、外套の切れ端へ塗った。古い旗布は獣脂と汗で硬い。新布も血を乾かせば似た手触りになる。
「おまえの谷の印は、どれだ」
「一番下です」
「それまで切るのか」
「谷を残して兵を失うより、布を失う方が安い」
夜半、敵使が一人で門前へ来た。目を布で覆っていた。こちらが灯火の数を偽ることを見越し、最初から指だけで軍旗を数えるつもりだった。
ミサは旗竿を握り、使者の前へ立った。指が一枚ずつ赤布をつまむ。古い布、偽の布、古い布。九枚目で使者の指が止まった。
「血が新しい」
「今日死んだ兵の旗だ」
「織り糸が細い」
「山上の谷は、細い毛を使う」
使者は笑った。十三枚目、ミサの谷だった外套片を強く引く。縫い目が軋む。外れれば五隊の死が露わになる。
ミサは竿を引き寄せ、使者の手首へ短刀を当てた。
「交渉で旗を奪うのか」
「布の数を確かめただけだ」
「なら、十三と報告しろ」
使者は手を離した。門外へ戻る足音が闇へ消える。
隊長が低く言った。
「半刻は稼げる。その間に民を西門から出す」
ミサは外套だった十三枚目を撫でた。もう故郷の紋様は残っていない。
夜明け前、十三枚の赤布が城壁の上へ掲げられた。
その陰で西門が開いた。