十三階の値札

レシートのない返品は、閉店後に十三階で値付けする。

百貨店の返品係なら誰でも知っている。品物を一つずつ白い台へ載せ、手放してから後悔するまでの日数を値札に書く。価格がゼロ日の品は、担当者が買い取らなければならない。金銭は不要だが、持ち帰るまで身につけてはいけない。

皆月が担当した夜、赤いマフラーが返ってきた。

手編みだった。端の一目だけ表裏を間違えている。三年前、皆月が恋人へ渡したものと同じだった。別れた春、彼女は「捨てた」と言っていた。皆月はその言葉を信じるため、同じ毛糸の売場を三年間避けていた。返品係では、客の嘘より品物のほうを先に信じるよう教わる。規則では、知っている品でも知らないふりをする。

皆月は白い台へ載せた。

天井から下がる計数機が、持ち主の後悔を測る。針は一度だけ震え、ゼロを指した。値札発行機から《〇日》と印字された札が出た。

「買い取りですね」

同僚は驚きもせず、伝票を差し出した。皆月は署名した。誰が返品したか尋ねることは禁止されている。顧客欄には、細い糸が一本縫いつけられているだけだった。

マフラーを紙袋へ入れ、従業員エレベーターに乗った。十三階を離れるまで身につけてはいけない。扉が閉まると、袋の中から編み針の触れ合う音がした。

一階へ着くまでに、マフラーは少し長くなっていた。

帰宅後、皆月は首へ巻いた。毛糸は冷たく、知らない香水の匂いがした。鏡を見ると、値札がまだ残っている。切ったはずの細い紐が、うなじの皮膚から生えていた。

《〇日》の下に、小さな数字が増えている。

一日、二日、三日。

それは彼女の後悔ではなく、皆月が買い取ってからの時間らしかった。七日目、彼は店へ返そうとした。しかしレシートがない。返品係の同僚は、規則どおり十三階へ送った。

閉店後、白い台に赤いマフラーが載り、今度は皆月自身が計数機の下へ立たされた。

針は千九十五日で止まった。

値札はマフラーではなく皆月の手首へ巻きついた。紙の端から赤い毛糸が伸び、彼の脈に合わせて一目ずつ、空の袖を編み始めた。