合格祈願を半分に
神社のお守りを、双子の姉は半分に切ろうとした。
「罰が当たる」
私が止めると、姉ははさみを置いた。
「一個しかないから」
母が買ってきた合格祈願のお守りだった。
姉は地元の医学部、私は東京の音楽大学を受ける。家計の都合で、二人とも私立へ進むのは難しい。母は口にしなかったが、食卓に置かれた学費一覧が代わりに話していた。
「そっちが持って」
私は言った。
「医学部のほうが倍率高いし」
「音大だって実技あるでしょ」
「私は落ちたら地元で働く」
言った瞬間、姉が怒った。
「勝手に諦め役を取らないで」
「現実でしょ」
「私が受かったら、あなたが行けないみたいに言わないで」
実際、その可能性はあった。
放課後の音楽室で、私は課題曲を弾けなくなった。鍵盤へ指を置くたび、姉の参考書と、母のため息と、東京の家賃が浮かんだ。
顧問が隣に座った。
「間違えるのが怖い顔じゃないな」
事情を話すと、顧問はピアノのふたを閉めた。
「家族で一つの合格を取り合っていると思ってる?」
「違うんですか」
「違うと断言はできない。お金は現実だから。でも、合格する前から席を一つにする必要もない」
その夜、姉と母を食卓へ呼んだ。
奨学金、教育ローン、特待生制度。顧問にもらった資料を並べた。
母は「二人とも受かったら考えよう」と言った。
「受かってからじゃ遅い」
姉が言う。
三人で数字を出した。足りない。何度計算しても足りない。
最後に母が、自分も勤務時間を増やすと言った。
私は反対した。
姉も反対した。
結論は出なかった。
それでも、誰か一人が黙って身を引く形だけはやめた。
試験当日、姉はお守りを二人の間に置いた。
「切らずに、交代で持とう」
午前は姉、午後は私。
先に試験を終えた姉が、駅まで届けに来た。お守りは手のひらで温まっていた。
結果は、二人とも合格だった。
祝いのあと、また家族会議をした。
私は大学の特待生に選ばれ、姉は地域枠の奨学金を使うことになった。それでも余裕はなかった。
お守りは今も実家にある。
半分には切られていない。
あの日、分けたのは御利益ではなく、夢を一人分に減らさない責任だった。