同じ味の百本目

「液体を同じ量に分けるだけ? 酒場の小僧でもできる」

王立醸造所の審査で、オスカドは無能と判定された。

【固有技能:《等分注》――一つの液体を、指定した複数の容器へ完全に同量ずつ分ける】

味を良くすることも熟成を早めることもない。酒侯ティルザは、彼を樽洗いへ回した。

その秋、王国最大の輸出契約が危機に陥った。北方連合へ送った葡萄酒の試供品が、瓶ごとに甘さも色も違ったのだ。畑も樽も違えば味が違うのは当然――醸造師たちはそう弁明したが、連合の商人は「一箱の中で当たり外れがある酒は買わない」と契約破棄を通告した。契約が消えれば、葡萄農家三千戸の冬越し資金も消える。名高い当たり樽を競売するだけでは、毎年同じ量を買う大口客をつなぎ止められない。偶然の名酒より、次の年も注文できる味のほうが商売には強い。信用は、驚きより再現性から生まれる。

オスカドは百の樽を少量ずつ味見した。酸味の強い樽、香りの高い樽、甘すぎる樽。前世のワイン工場で見たように、彼は樽を個別に売るのではなく、巨大な槽へ配合して一つの味を作った。

「良い樽へ悪い酒を混ぜる気か!」

醸造師が怒鳴る。

「ばらつきを欠点にするか、材料にするかの違いです」

香り、酸味、甘みが釣り合ったところで、《等分注》を使う。百本の瓶へ、一滴の差もなく同じ量が流れた。液面がそろえば空気の量もそろい、熟成の進み方まで安定する。瓶には年号ではなく、配合番号と味の説明を付けた。

北方連合の使者は一番目と百番目を無作為に開けた。色も香りも同じ。続いて十本を選んでも、差はない。

「来年もこの味を出せるか」

「畑の味が変わっても、配合で同じ基準へ戻します」

使者は破棄書を燃やし、注文量を倍にした。

ティルザは樽洗いの札を外し、百本目を自ら飲んだ。

「酒は良い年を待つものだと思っていた」

酒侯は王国印の金型をオスカドへ渡す。

「おまえは天候ではなく、約束した味を売った。今日から、この国の『同じ』を造れ」