同じ日付の定期券

定期券売り場が閉まるまで十分。羽田野誠と芹沢亜希は、駅のベンチに並んで座っていた。間には、解約したばかりの定期券が二枚ある。発行日は同じ四月一日。二人で暮らし始めた日だった。敷金を払って財布が空になり、その夜は駅の立ち食いそばを一杯だけ頼んだ。定期券だけが、新生活で最初に二人とも手に入れた同じ形の持ち物だった。

誠は名古屋支社へ、亜希は新横浜の研究所へ転勤する。今の部屋は今月で解約することにした。

「ケース、返す」

亜希が青い革の定期入れを差し出した。誠の誕生日に贈ったものだ。透明窓には、亜希の定期券が入っている。

「また入れ替わってる」

「最後まで直らなかったね」

同じ色のケースを使い、朝に急ぐと何度も取り違えた。亜希の研究所で誠の名前が読み上げられた日も、誠の会社の改札で亜希の期限切れを知らされた日も、帰宅すれば笑い話になった。改札で止められるたび、二人は笑って交換した。

「新横浜を希望したの、いつ?」

「二月」

「俺の内示が出たあとか」

「前。誠が横浜案件を希望してるって聞いたから」

誠は彼女を見た。自分が希望した横浜案件は、先月突然名古屋へ移管された。亜希には、正式決定まで言わなかった。

「名古屋になったって、どうして早く言わなかったの」

「君が新横浜を選んだって聞いたから。もう俺に合わせる気はないと思った」

「合わせた結果だよ」

閉店を告げるシャッターが半分下りる。

誠はケースから定期券を抜いた。裏面に細い油性ペンで、〈名古屋でも行く〉と書かれている。亜希が書いたのではない。誠自身が、酒に酔った年末、彼女へ見せずに書いた言葉だった。入れ替わった定期券を、亜希は読んでいたのだ。

「これを信じた」

「今も嘘じゃない」

「でも、何も言わなかった」

「君も」

二人は同時に黙った。売り場の時計が二十時を指す。

係員が最後に解約金を差し出した。亜希はそれで新横浜までの切符を一枚買った。誠は名古屋までの乗車券を財布へ戻す。

ケースだけが一つ余った。亜希は青い革を誠の膝へ置き、違う改札へ歩き出した。誠は追わず、自分の名前では通れない定期券を、改札横の返却箱へ入れた。