墜ちる空中要塞を接岸させる

港湾荷役オーヴェラは、船が着いた後にしか働けない女と見下されていた。

綱を取り、荷札を読み、船腹を岸壁へ寄せる。海戦の英雄が凱旋しても、最後に船を止めた彼女の名は記録に残らない。港務長は「腕力だけの岸壁ねずみ」と呼んだ。

技能も平時専用に見えた。

【接岸荷役:港へ到着する船一隻を、指定岸壁へ衝撃なく接岸させる。航行域は問わない】

「空を飛ぶ船でも来れば役立つかもな」

港務長の冗談は、敵の空中要塞が撃墜された日に現実となった。

燃える要塞は城より大きく、推進炉を失って難民港へ落ちてくる。港には避難船が二百隻、岸には乗船を待つ民が五万人いた。海軍は要塞を撃った功績を争うばかりで、落下地点を変える魔力は残っていない。

港務長は自分の高速艇を出せと叫び、民を押しのけた。

オーヴェラは係船柱へ太い綱を巻き、落ちてくる黒い影を見上げた。

「あれは城だぞ。船ではない!」

「航行域は問わない。空を航ってここへ到着するなら、港の客です」

彼女は入港鐘を一度鳴らした。指定岸壁は、十年前に干上がった巨大造船渠。今は誰もいない石の窪地だった。

技能が発動すると、手の綱が雲の上まで伸び、空中要塞の船首へ結ばれた。炎を噴く巨体が難民港の真上で曲がる。落下の轟音は消え、まるで潮に押される船のように、要塞は造船渠へ水平に滑った。

最後の一尺で速度がなくなった。

黒い要塞は石壁の間へ寸分違わず収まり、甲板の敵兵は衝撃一つ受けないまま王国軍に包囲された。港の水面には波紋すら立たず、避難船の舷灯も消えなかった。

逃げようとした港務長の高速艇だけが、係留許可を失って岸から離れられない。

要塞の艦長は敗北を認め、降伏旗を港湾規則どおり右舷へ掲げた。海軍提督たちが戦果を奪い合う中、難民船の船長二百人は入港記録へ同じ署名を残す。救った者の欄には、オーヴェラ一人の名しかなかった。

港の子どもたちは、彼女が握った一本の綱を勝利旗のように見上げた。

《職業が【港湾荷役】から【天空港湾卿】へ書き換わりました》