壊れた結界と居場所の鐘
和平夜会の最中、外国使節館を守る結界が砕けた。
窓の外で火花が散り、バルデロ王子は即座に婚約者を断罪した。
「ヴァレリア・スコルダ。和平婚に反対する君が、結界核を壊したのだろう。国家を危険へさらした女との婚約を破棄する」
結界が完全に落ちれば、使節館への攻撃と見なされ、停戦はその夜で終わる。ヴァレリアは二年間、国境の墓地を巡って条約をまとめてきた。婚姻がなくても和平は必要だと主張したことを、バルデロは「私を嫌っている証拠」と曲げ続けた。そして今、その言葉まで動機として利用している。
「でしたら、外交官全員が署名した規則を使いましょう」
爆音に怯えた使節たちは出口へ集まっている。ここで言い争えば、真相より先に軍が動く。ヴァレリアは自分の名誉だけでなく、停戦の残り時間を測るように鐘を見た。
ヴァレリアは騒がず、外国王子アウレリオへ手を向けた。
「不在鐘をお返しください」
アウレリオは腰の小鐘を彼女へ渡した。彼が証言する必要はない。和平期間中、結界へ触れられる者は皆、鐘に魔力を登録していた。指定した時刻に誰がどこにいたか、鐘自身が一度だけ場所の像を鳴らす。
ヴァレリアが破壊時刻を告げ、鐘を振る。
澄んだ音とともに、広間へ二つの光景が浮かんだ。彼女は東門で避難誘導をしている。一方、結界核の前にはバルデロが立ち、短剣で青い石を割っていた。
「これは和平の覚悟を試す演習だ!」
「使節へ知らせず、わたくしへ罪を着せる演習ですか」
王子は言葉を失った。やがて、結婚すれば外交上の損失を最小限にできる、婚約破棄は撤回すると言い換える。
ヴァレリアは笑わなかった。
「外交とは、嘘を美しい言葉へ直す仕事ではありません」
彼女は婚約指輪を不在鐘の鎖へ通し、バルデロの前へ置いた。
「破棄を受諾します。和平は続けますが、あなたとの婚姻は続けません」
元婚約者へ背を向ける。アウレリオが、対等な全権大使として交渉卓へ、と手を差し出した。ヴァレリアは国を選び直すのではなく、自分の役目を選び、その手を取った。