夜番の灯り

柵外の井戸へ行く者は、日暮れ前に戻れ。

辺境の葦原村には、その決まりがあった。夜になると沼狼が出るからだ。

だが鍛冶場もパン窯も夕方まで水を使う。遅れた家は、朝まで空の壺で耐えるしかなかった。

若い守備隊長グレンは、沼狼を皆殺しにするとは言わなかった。

井戸を柵の内側へ掘り直す金もない。

彼は井戸までの一本道に、等間隔で杭を打った。

「灯りを十二個置きます。夜番は二人一組。各家は月に一度、一刻だけ見張るか、灯油一瓶を出す。老人だけの家はどちらも免除。番表は酒場に貼り、隊長の家も最初の欄に入れる」

村人は顔をしかめた。

夜番など、命令されても嫌な仕事だ。だがグレンは罰則を書かなかった。

空欄の夜は守備隊が埋める。その代わり、何夜埋めたかも公開し、灯油代とともに共同費から差し引く。足りなくなれば、夜間の利用を止める。誰か一人へ無理を押しつけない。

最初の番表は半分以上空いていた。

ところが、その晩に守備隊が立てた灯りを見て、パン屋が翌日の欄へ名を書いた。明け方まで火を落とさずに済むからだ。

鍛冶師は油を二瓶置いた。薬草師は沼狼の嫌う煙草を束ねた。狩人は杭の間へ鳴子を張った。

三日目には空欄がなくなった。

最初の夜番で、グレンは村長と並んだ。

闇の向こうで草が揺れ、低い唸り声がした。村長の手が槍へ伸びる。

だが、十二の灯りと鳴子を嫌った獣は、姿を見せず遠ざかった。

戦いは起きなかった。それでよかった。

井戸の滑車には、昼間のうちに新しい取っ手がつけられていた。片手でも回せるよう、木工師が勝手に直したのだ。

夜半、熱を出した子どもの母親が駆けて来た。番表に名のない家だったが、誰も止めない。

「水の権利と、夜番の負担は別だ」

グレンがそう言うと、村長が先に桶を下ろした。

水音が、暗い穴の底で丸く響く。

灯りは一本ずつ道を照らし、帰り道まで途切れなかった。

翌朝、最後の杭に小さな札が掛かった。

――夜も汲める。

――番をした者だけでなく、必要な者が。

消え残った灯芯の下で、満ちた壺を抱く母親の影が、柵の内側へ戻っていった。