夢魔、睡眠不足につき休業

【夢魔メロネッタ 月次業務報告書】

一、業務概要

 睡眠中の人間へ甘美な夢を見せ、発生した感情を糧とする。

二、今月の目標

 接触件数百件。恋愛夢六十件、冒険夢三十件、その他十件。

三、実績

 接触件数四件。

 内訳。

 一件目、午前三時十二分に就寝。三時二十分、目覚まし時計で終了。

 二件目、夢の中でも表計算ソフトを操作。感情の発生なし。

 三件目、動画を見ながら寝落ち。夢より広告の音が強く侵入不能。

 四件目、こちらが先に眠ったため詳細不明。

四、問題点

 人間が寝ない。

 メロネッタは報告書を魔界本社へ送った。返事は一行だった。

『努力不足。魅力的な夢を提案せよ』

「寝てから言ってよ!」

 彼女自身も疲れていた。夜ごと人間の枕元を回り、眠るのを待つうち朝になる。昼は遮光カーテンの隙間から工事音が入り、隣室の掃除機が壁を震わせる。夢魔なのに慢性的な睡眠不足だった。

 そこでメロネッタは業態を変えた。

 駅裏の空き店舗を借り、『二十分だけ眠れる店 悪夢なし』を開業。椅子を倒し、毛布をかけ、スマートフォンを鍵付き箱へ預かる。料金は五百円。客が眠ったら、彼女は穏やかな夢を見せ、その余波を少しだけいただく。

 初日の客は会社員だった。

「海辺の夢がいいです」

「恋人は登場させる?」

「部長がいなければ何でも」

「切実ね」

 二十分後、会社員は晴れやかな顔で起きた。

「久しぶりに、追われない夢を見ました」

「追加料金で三十分もあるよ」

「会議があるので」

「夢から覚めても悪夢か」

 店は評判になった。学生は合格発表の夢、料理人は誰も皿を返さない夢、親は子どもが一晩起きない夢を注文した。メロネッタは忙しくなったが、夜の徘徊はやめられた。

五、業態変更後の実績

 利用者二百十三名。平均睡眠時間二十二分。満足度九十八パーセント。

六、新たな問題点

 客のいびきが大きく、店主が眠れない。

 魔界本社は成功を知り、加盟店契約を持ちかけてきた。売上の四割を要求されたので、メロネッタは契約書を丸めて枕にした。

「夢の中で返事します」

 そのまま彼女は受付で眠り込んだ。客たちは起こさず、料金箱へ五百円ずつ入れ、静かに帰った。

 その夜、夢魔が見たのは、誰にも起こされず十二時間眠る夢だった。あまりに甘美で、目覚めた本人が自分の夢を食べてしまったという。