契約を量る片皿天秤

古道具店〈半分の月〉で、一番売れ残っていたのは皿が片方しかない天秤だった。

「量れない秤を売るのか」と皆が笑う。店主ミオネだけは、欠けているのではないと知っていた。もう一方の皿には、目に見えない約束が載るのだ。

穀物商ロシュカが来たのは、収穫祭の前日だった。

彼は痩せた麦袋と一枚の契約書を抱え、ひどく疲れた顔をしている。

「伯爵領から百袋買った。だが届くたび、一袋が少しずつ軽い。役人の公定秤では規定どおりだ」

不足を訴えれば、商人の保管が悪いと罰金を取られる。すでに三人の得意客から信用を失い、倉庫番まで去った。明日の納品でも証拠を出せなければ、店と倉庫を差し押さえられるという。

「もう言い訳を重ねるのは嫌だ。正しい重さを示す分銅が欲しい」

「分銅では、向こうの秤が正しいと言い張られます。こちらをお使いください」

ミオネは片皿天秤の隣へ契約書を置かせ、皿へ麦を一握り載せた。

針が激しく振れ、空中で見えない何かにぶつかったように止まる。すると契約書の「一袋五十斤」という文字が金色に光り、皿の麦から黒い煙が一割分だけ抜けた。

「この天秤は、契約に書かれた量と実物の比率を量ります」

ロシュカが別の袋も試す。すべて同じだけ不足していた。さらに袋の底から、公定秤だけを重く反応させる鉛粉が見つかった。

「不足と細工を、一度に証明できる……」

「約束を守っている側が持てば、針は真ん中から動きません」

翌夕、ロシュカは差し押さえ札を破った紙束とともに戻った。伯爵家の納入役は解任され、不足分と罰金が全額返されたという。

彼は金貨を一枚ずつ天秤の皿へ載せた。値札分で針は動かず、余分な三枚で大きく傾く。

「約束より多いですよ」

「これは契約ではなく礼だ」

ミオネが二枚を返すと、ロシュカは一枚だけ残した。

「なら、最初に俺を信じた分だけ受け取ってくれ」

天秤を抱えた商人が去り、店の空気が軽くなる。

ミオネが片方しかない棚札を外した瞬間、二度目のドアベルが鳴った。