屋上テーブルの星印
ホテルの屋上レストランで、星印のテーブルが二重予約になっていた。
二十時、私の名は「久我山莉子」。同じ欄には「梶浦冬佳 二名」とある。星印は、東京タワーが正面に見える一卓だけだ。
私は昇進祝いに、退職した元同僚の仁科さんを誘っていた。ところが現れた梶浦さんは、私と同じ会社の取引先で、しかも一人だった。予約担当の城戸さん、梶浦さん、まだ来ない仁科さん。三人の誰かが妙な予約をしたらしい。
確認できた手掛かりは三つ。二件とも「香菜抜き、炭酸水」と同じ要望。二件の予約金は、同じカード番号の下四桁で支払われている。そしてテーブルには、二人分ではなく三人分の小さなデザート皿が用意されていた。
「仁科さんが、両方予約したんですね」
私が言うと、背後でエレベーターの扉が開いた。
仁科さんは花束ではなく、角の擦れた企画書を抱えていた。半年前、彼女は私と梶浦さんの共同案件でミスをしたと思い込み、責任を取る形で会社を辞めた。けれど本当の原因は、私が承認欄を一つ見落としたことだった。最近になってログを確認し、ようやく分かった。
謝りたいと連絡したが、仁科さんは「もう済んだこと」と会うのを断った。梶浦さんも、自分が強い言い方をしたことを悔やんでいた。それぞれが私には会うと言ったのに、互いとは会わない。そこで仁科さんは自分のカードで予約金を二件分払い、私と梶浦さんの名で同じ卓を押さえた。
「私が辞めたせいで、二人がずっと謝れないままなのが、一番いやだったの」
三人分の皿が、最初から真相を告げていた。城戸さんも事情を聞き、予約を別卓へ分けずに残してくれた。
私は企画書を梶浦さんへ差し出した。
「見落としたのは私です。今さらだけど、ごめんなさい」
梶浦さんは表紙を撫で、仁科さんに向き直った。
「私も、あなたを急かしすぎた」
雲が切れ、ビルの間に東京タワーが灯った。城戸さんが三つの皿に、小さな星形のチョコレートを置く。
仁科さんは一つつまみ、笑った。
「これでやっと、反省会じゃなくて昇進祝いね」