巨神の最低点
「最低の能力値しか見えない鑑定士? 役に立たぬ数字を拾う無能だ」
戦王軍の査定官は、バスティを攻城隊から追放した。
【最低値鑑定:対象が持つ能力のうち、最も低い項目と値だけを表示する】
兵士なら裁縫、魔術師なら泳ぎ。戦闘と無関係な項目ばかり出る。バスティは荷を背負い、包囲中の都を去ろうとした。
そのとき敵国の巨神像が歩き出した。
高さは城壁の三倍。石の拳が振り下ろされるたび塔が消える。矢も炎も効かず、戦王クァルザの大斧さえ足首に白い傷を残すだけだった。巨神の胸には敵王の旗が刺さり、城壁を越えれば王宮まで七歩しかない。
砲兵は膝を狙い、魔術師は関節を凍らせた。しかし巨神は氷ごと脚を動かし、砲弾を踏み潰す。残された市民は地下聖堂に集まり、天井の砂を浴びながら祈っていた。
「鑑定士、弱点を出せ!」
査定官に引き戻されたバスティは、巨神像を見上げた。
――最低能力:睡眠耐性、零。
周囲が沈黙し、やがて笑い声が起こる。
「石像が眠るものか!」
だがバスティは、巨神の胸で回る青い魔力輪を見た。前世の機械も、人のように眠らなくても休止状態には入った。問題は、どう眠らせるかだ。
都の鐘楼には、夜ごと国中へ就寝時刻を告げる《安息の鐘》がある。人間には少し眠気を誘うだけで、戦場では使われない生活魔法だった。
「鐘を全部、巨神へ向けてください」
クァルザは一瞬だけ迷い、大斧で鐘楼の支柱を切った。傾いた十二の鐘が、巨神像を正面に捉える。
バスティが合図し、避難していた鐘守の少女が綱を引いた。
柔らかな音が重なる。
巨神の拳が止まった。青い魔力輪が一つずつ消え、まぶたのない石の顔がうつむく。最後には膝を抱えるように座り込み、そのまま城壁へ寄りかかって動かなくなった。
敵兵は、自軍の切り札が眠る姿を見て潰走した。
査定官はまだ「偶然だ」と呟いていた。戦王クァルザは大斧を地へ突き立て、バスティの追放札を刃で貫いた。
「最高の力を褒めるだけなら子供にもできる」
彼は眠る巨神を顎で示す。
「最低の一点で戦争を終わらせた者を、我が軍では軍師と呼ぶ」