恋の最終走者

 さあ、放課後の陸上競技場です。校内駅伝まで残り三週間。帰宅部の榎戸颯介が、今日も誰にも頼まれていない全力疾走を見せています。

 そこへ女子駅伝部主将、菱沼環が進路を遮った!

「榎戸くん。前から、あなたを追いかけていました」

 おっと、開始一秒で大胆な発言!

「菱沼さんが、僕を?」

「速すぎて、なかなか捕まらなかった」

「そんなに熱心に……」

「あなたの脚が欲しいの」

 颯介、顔が赤い! しかし環が見ているのは顔ではなく、ふくらはぎです!

「僕の脚だけ?」

「できれば肺も」

「要求が猟奇的だね」

「駅伝部に入って。最終走者が足りないの」

「勧誘か!」

 颯介の心、ここで大失速。恋の新記録は未公認となりました。

 しかし彼は入部しました。理由は「走るのが好きだから」。本当は環と毎日会えるからですが、本人はフォーム改善のためだと言い張っています。

 三週間後、校内駅伝本番。最終区間でたすきを受けた颯介は、先頭と三十秒差。環は沿道から叫びます。

「榎戸くん、好き! あなたなら抜ける!」

 その瞬間、颯介が加速した! 一人抜いた、二人抜いた、最後の直線で逆転! 駅伝部、奇跡の優勝です!

 ゴール後、颯介は倒れ込みながら尋ねました。

「今の『好き』は、僕への告白?」

「走りが好き、って意味」

「やっぱり勧誘の延長か……」

 落胆する颯介。しかし環はしゃがみ、彼の耳元で続けます。

「でも、走ってないときのあなたは、もっと好き」

「それは部員として?」

「恋人候補として」

「候補?」

「入部試験は合格。交際試験は今から」

「何をすれば?」

「私をデートに誘う」

「駅伝部へ?」

「恋人へ!」

 颯介は息を整え、立ち上がりました。

「菱沼さん。次の日曜、僕と一緒に走ってください」

「それ、練習の勧誘?」

「じゃあ、走らずに映画を」

「フォームが崩れそう」

「恋愛にフォームはあるの?」

「ある。まず手をつなぐ」

 ここで両者、きれいなスタート! なお、翌日から駅伝部の新入部員募集ポスターには「走りも恋も、最初の一歩から」という標語が掲げられましたが、顧問から「部活を出会い系にするな」と即日撤去されました。