恋人限定ルームの入室履歴
VRMMO《エバークラウン》の王都広場で、レグルスはゲーム内妻フィオをギルドから追放しようとした。
「現実でもゲームでも束縛するな。カナリアは初心者だから面倒を見ただけだ。俺たちが浮気しているなんて妄想を広めた罪は重い」
金色の翼を持つカナリアが、フィオから奪った限定外套を着て彼の隣に立つ。レグルスは追放理由へ《配偶者への虚偽中傷》と入力し、可決後はフィオの工房と倉庫も自分が引き継ぐと宣言していた。その外套は夫婦クエストで得た共有装備だった。
「その装備を返して」
「共有物は夫である俺が管理する。文句があるなら、システムに潔白を証明させてやる」
レグルスは公開監査のボタンを押した。ギルド資産を横領していないと示し、フィオを嘘つきにするつもりだったのだ。
空中へ青いウィンドウが開く。
《監査対象:共有装備〈星渡りの外套〉》
《移転先:カナリア》
《移転理由:恋人限定ルーム利用料》
《承認者:レグルス》
広場が静まり返った。
恋人限定ルームは、登録配偶者以外と入る場合、双方が「既存関係に反し自己責任で利用する」と確認しなければ扉が開かない。安い経験値ボーナス目当てで、レグルスとカナリアは毎晩同意欄を押していた。
監査画面が次の記録を映す。
《入室回数:四十七回》
《使用動作:抱擁、口づけ、共同睡眠》
《現実の配偶者へ通知しない、を選択:四十七回》
「ただのエモートだ!」
レグルスが叫ぶ。だがカナリアの外套には、彼から届いた贈答メッセージまで付属していた。
《現実の妻と別れたら、この世界でも正式に君だけを選ぶ》
フィオは反論せず、現実の婚姻契約と連動した夫婦アカウントを解除した。するとレグルスが受けていた住宅、倉庫、能力補正が一斉に消える。どれもフィオの生産職ランクを基準に与えられていたものだ。
追放投票を始めたギルドマスターは、表示された監査結果を見て選択先を変えた。さらに運営の赤いシステム通知が広場全体へ降る。
《共有財産の不正移転および監査妨害を確認。レグルス、カナリア両アカウントへの永久停止命令を執行します》