懲役一日、無期限

真木名佳苗に言い渡された刑は、懲役一日だった。

ただし、その一日を「更生判定AIが真正な反省を認めるまで」繰り返す。

午前七時、佳苗は事故を起こした交差点へ戻る。午後一時、被害者の青年を車ではねる。午後十一時五十九分、独房の時計が止まり、また午前七時になる。肉体は傷つかず、記憶だけが残った。

最初の百回、佳苗は事故を防いだ。車に乗らず、青年へ警告し、道路を封鎖した。だがAIは告げた。

〈回避行動は自己解放を目的としており、反省とは認定されません〉

次の百回、彼女は泣き、土下座し、遺族へ謝った。AIは声の震えも涙の塩分も測り、毎回同じ判定を返した。

〈感情表現に操作性を検出〉

佳苗は怒った。反省の形を決めるのは誰だ。被害者を生き返らせても不合格、正直に憎んでも不合格。やがて青年を「午後一時に現れる判定装置」としか思わなくなった。

五千日目、佳苗は事故を防ぐのをやめた。青年は倒れた。救急車を呼ぶ途中、彼の携帯が鳴った。画面には「兄」と表示されていた。

それまで佳苗は、電話に出たことがなかった。

「もしもし」

兄は開口一番、「また発作か」と言った。青年は事故の前から心臓に病気を抱え、家族へ隠していたらしい。兄は怒り、泣き、救急隊へ伝える薬の名を叫んだ。

次の朝、佳苗は青年をはねる前に車を止めた。そして彼の兄へ電話した。事故は起きなかった。それでもループは続いた。

佳苗はようやく理解した。彼女はずっと、青年の死か自分の刑しか見ていなかった。彼が誰を心配させ、何を隠し、どんな朝を生きていたのか知ろうとしなかった。

次の一日、佳苗は逃げ道を探さなかった。青年と喫茶店に入り、病気のことを兄へ話すよう説得した。青年は怒ったが、最後には電話をかけた。

午後十一時五十九分、AIは初めて沈黙した。

午前零時一分、扉が開いた。

現実では、判決から十二分しか経っていなかった。佳苗は釈放申請をせず、遺族への面会を希望した。青年は現実では戻らない。五千回救った記憶も、佳苗にしかない。

それでも彼女は、反省とは苦しむことではなく、失った人を自分の物語の道具にしないことだと知った。

一日の刑は終わった。償いの時間は、そこから始まった。