成人式の赤字

瀧聞京介は成人式の受付で、人生が三十八年の赤字だと知らされた。

《世帯時間債務を継承しました。清算開始年齢は本日です》

父が事業に失敗し、母が生活費を借り、利息が積み上がった結果だという。二十歳になった京介の手首には、残高ではなく赤い数字が浮かんだ。マイナス三十八年。返済できなければ、社会時間院で身体年齢を先に進め、債務分を回収される。二十歳で入り、五十八歳の肉体で出てくる。

京介は母を憎んだ。彼が十歳のとき失踪し、一度も連絡をよこさなかった女だ。父はすでに亡くなり、怒りの向け先はそこしかなかった。

清算室へ入る直前、待合に白髪の女性が現れた。母だった。戸籍上は四十九歳なのに、八十を超えて見えた。

「十八年しか貯められなかった」

母は身分端末を差し出した。失踪後、時間通貨圏の外で暮らし、医療も交通も使わず、農場で現物だけを受け取って働いてきたという。自分の残高を減らさず、京介へ渡すために。

「足りないじゃないか」

京介は叫んだ。母はうなずいた。

「足りない。だから謝りに来た。許されるためじゃなく、残りを一緒に返すために」

十八年を受け取れば、母はその場で死ぬ。京介は転送承認に指を置いたまま、押せなかった。子どもの頃、母が安い靴を自分で縫ってくれた夜を思い出した。あれも借金で買えなかった時間だった。

京介は一括清算を拒否し、公共労務返済を選んだ。下水管の点検や災害倉庫の整備を、実際に働いた一時間ずつ返済へ充てる制度だ。完済には二十年以上かかる。母も別の班へ登録した。

成人式の写真に、京介は白髪の母と並んで写った。二人の手首には、まだ大きな赤字が光っている。

それでも京介は初めて、その数字を自分の人生の判決ではなく、これから二人で減らす距離だと思えた。

三年後、京介の赤字は一年半しか減っていなかった。母の歩みは遅く、二人は何度も喧嘩した。それでも毎月の返済日に同じ食卓へ座り、数字を確認した。借金は親子を結ぶ理由にはならない。だが逃げずに話す理由にはなった。京介は成人を、自由になる日ではなく、自分で負債の扱いを選んだ日として覚えている。