折れた誓環

フィヨルドの夜は、海と空の境がなかった。

盾長ハルドール・スケッグは、炉の前で銀の誓環を外した。腕には二十年分の白い痕が残る。

ヤール・シグヴァルドは角杯を傾けた。

「夜明けに南岸の村を焼く。敵は煙を見て救援に来る。船が狭瀬へ入ったところで、崖から岩を落とせ」

「南岸は我らの民です」

「冬を越す麦を敵へ渡すよりましだ」

村にはハルドールの姉がいる。だが、それを口にすれば姉一人のために主を売ることになる。実際には、主を売る理由など一人分で十分だった。

誓環はシグヴァルドの父から授かった。輪に手を置き、海神と血族へ忠誠を誓った夜、ハルドールは十七歳だった。誓いは若者にさせるものだ。老人は言葉がどれほど腐りやすいか知っている。

「北の烽火台は誰が守る」と彼は聞いた。

「おまえだ。敵船が狭瀬へ入ったら火を上げろ。赤い炎なら岩を落とす。青ければ退けだ」

青い炎には魚油へ銅粉を混ぜる。シグヴァルドは、青を使うことはないと思っている。退く場所などないからだ。

だが三日前、ハルドールは捕虜の少年を解放した。敵将エイリークへの伝言を持たせて。

――青火を見たら南岸へ寄れ。崖の兵は武器を置く。

見返りは村を焼かぬこと。それに、シグヴァルドの首を村人へ渡すことだった。自分の首については話していない。

ヤールが立ち上がり、ハルドールの腕に誓環がないことに気づいた。

「輪はどうした」

「重くなりました」

「拾え。おまえの忠義そのものだ」

誓環は炉端に置いてある。ハルドールは斧の背で一度叩いた。銀の輪が乾いた音を立てて二つに割れた。

広間の戦士たちが黙る。

シグヴァルドは剣を抜いた。

「その意味が分かっているのか」

「ようやくな」

ハルドールは片方を懐へ入れ、もう片方を持って広間を出た。背後で椅子が倒れ、追手の足音が続く。烽火台まで二十歩。矢が肩をかすめた。

彼は銅粉の桶へ割れた銀を投げ込み、火打石を打った。

青い炎が北風に立ち上がる。狭瀬の向こうで敵船の櫂が揃い、南岸の防柵門が内側から開いた。