抜かれたのは雑草だけ
薬草師ナジュが追放された理由は、熊手が命令を聞かなかったからだ。
王宮庭園で「雑草をすべて抜け」と言われても、《眠り熊手》は半分しか動かない。庭師長は怠け者の道具だと決めつけ、獣人のナジュごと辺境へ放り出した。
新しい土地は、膝まで草に埋もれていた。棘草、蔓草、白い小花。どれも一緒に見えるほど絡み合っている。
ナジュは畑全部を見回し、すぐ目を閉じた。耳まで落ち込みそうになる。だから麻紐を二本置き、その間だけを今日の畑にした。
熊手を土へ当てる。
「ここで野菜の邪魔をするものだけ、起こして」
木の歯が淡い緑に光った。引くと、棘草の根だけが眠りから覚めたようにするりと抜ける。蔓はほどけて脇へまとまり、白い小花は一輪も倒れなかった。
庭師長が雑草と呼んだ小花は、熱冷ましの銀舌草だった。足元の丸い葉は食べられる野芹。熊手は怠けていたのではない。役に立つ草を、命令した人間より正確に知っていたのだ。
一往復するたび、土の茶色が増える。途中、棘の蔓がナジュの足首へ巻きついた。熊手を強く引けば、隣の銀舌草まで巻き込む。彼女はしゃがみ、蔓だけを一本ずつ歯へ掛け直した。
早さを競う者はいない。残すものを確かめる時間まで、今日の仕事だ。
最後の棘根がぽんと抜けたとき、熊手は満足そうに柄を震わせた。抜けた根は自分で小さくまとまり、焚き付けにちょうどよい束になる。
たった一列。そこには残した薬草が小さな庭のように並び、湿った土から青い香りが立った。
夕方、ナジュは野芹を刻み、卵へ混ぜた。鉄鍋へ流せば、縁からぷくぷく膨らみ、焦がし油の匂いが小屋を満たす。
その最中、王宮から緑封の手紙が届いた。
『晩餐会で毒草混入。至急、選別を命ず』
ナジュは封を切らず、熊手の柄へ挟んだ。命令という言葉だけで、もう読む価値は分かる。
「この子は、今夜休みです」
焼けた卵を皿へ滑らせる。白い小花を一輪だけ添えた。
王宮で抜かれたのはナジュだった。けれどこの土地で抜かれたのは、本当に要らないものだけだった。